物語をつくり、言葉でひとの心を動かす、小説家の仕事

2021.05.14 おしごと発見!

おしごと発見!

小説家

小説家は、その名のとおり、小説やエッセイを執筆(しっぴつ)する仕事です。アイディアを練(ね)り、取材や調べものをしたり、編集者(へんしゅうしゃ)と打ち合わせをしたりしながら、文章の表現を考え、物語をつくります。恋愛、ミステリー、SFなどジャンルはさまざま。作品は本や新聞、雑誌、インターネットなどで発表されます。小説家は、言葉でひとの心を動かすプロフェッショナルです。[取材:小説家 中村航(こう)さん]

小説のアイディアは、友人との会話や旅先の風景から生まれる


本屋の小説コーナーにならぶ本のほとんどは、プロの小説家によって書かれたものです。小説家・中村航さんは、これまでに、10代〜20代の男女を主人公にした青春エンターテインメントや恋愛ストーリーを中心に数々の小説を発表して、文学賞を受賞。中高生などの若い世代からも支持(しじ)を集めています。そんな中村さんに小説家の仕事内容を聞くと、「小説は、机に向かっていきなり書きはじめるわけではありません」と話します。

まず小説家が物語について考え、そのあと、編集者と話し合って内容を練り、決めていきます。そして、執筆。書き終わったあともストーリーを変えたり、文章を直したりする推敲(すいこう)という作業を行います。その後に、漢字や表現がまちがっていないかをチェックする「校正」。それが完了するとようやく印刷され、本屋にならびます。執筆から出版までは、短いもので2~3ヶ月、長いものでは1年以上かかることもあります。

小説のアイディアはどのように浮かぶのでしょうか。「僕の場合は、ひとりでじっくり考えるよりは、友人や知人、編集者と話しているときに作品のヒントを得ることが多いです。あとは、家や仕事場をはなれて、いつもとちがう場所へ行ったとき。そこで出会った風景やおもしろそうな話を『これは小説にできるかもしれない』と頭のすみに置いておきます」。

反対に、アイディアが浮かばないときや執筆に行き詰まってしまったときについて聞くと、「そういうときは、考えすぎないことがコツです。机をはなれて散歩してみると、ふと、いいアイディアが思いつくこともあります。あとは、ひとに相談してみることです。たとえ相手から答えを得られなくても、相手に向かって話していると、考えていることが頭のなかで整理されて、自然と答えに近づけることがあります」と教えてくれました。

小説は、締めきりが決まっていて定期的(ていきてき)に発表される「連載(れんさい)」と、完成してから発表される「書き下ろし」のふたつがあります。中村さんは、連載では結末までのストーリーの設計図をつくってから書き、書き下ろしでは連載よりもある程度自由に書いていくという方法をとっているそうです。

長編(ちょうへん)小説ともなると、400字詰めの原稿用紙で300枚以上。文字数は12万字にもなります。「作品の内容によりますが、300枚だと半年から、長いときは1年くらいで書き終えます」と話す中村さん。多くの小説家と同じように、パソコンで執筆しています。

歌詞や映画・マンガのストーリーをつくることも


小説家には、小説以外にも映画の脚本(きゃくほん)やゲームのシナリオを書く依頼(いらい)が来ることもあります。中村さんも小説を書きながら、アニメやマンガの原案づくり、作詞、映画の小説化など、幅広く活動をしています。「おもしろいものをつくりたいという点では、小説もそのほかの活動も同じです。ただ、小説は僕ひとりで完成するものですが、歌詞や映画では、アーティストや映画監督の意図(いと)や気持ちが混ざって、あたらしいものが生まれます。それはクリエイターとしておもしろいし、うれしいことですね」。

小説家は、自分の作品について語る講演会(こうえんかい)を行うこともあります。中村さんの場合は、「ステキチャンネル」というYouTubeチャンネルをつくり、小説の書き方講座などの配信(はいしん)を行っています。「執筆のときはひとりなので、YouTubeの配信で、コメントを見たり、だれかに向かって話したりすることは、気分転換(きぶんてんかん)になりますし、小説についてあらためて考えるいい機会にもなっています」。

読者から本の感想を聞いたときに、小説家として、いちばんやりがいを感じると語る中村さん。動画配信をとおしてファンや読者と交流することも、小説づくりの原動力(げんどうりょく)になっているようです。

子どものころから創作することが好きだった


会社に勤めたあと、31歳のときに小説『リレキショ』で第39回文藝賞を受賞し、小説家デビューした中村さん。小説家になる前には、バンド活動をつづけるなど、「子どものときから、自分で考えたことをかたちにして表現することが好きでした」とふりかえります。

小学生のころからよく本を読み、あるとき学校の先生から「中村くんが書く文章はおもしろい。もっと書いてみなさい」とほめてもらったことがあったそうです。「それから、夏休みにたくさん本を読んで感想文を書いたり、教室のかべ新聞にクラスメイトを主人公にした冒険小説を書いてみたりして、楽しんでいました。絵を描くのは苦手だけど、文章なら書けると自信になったと思います」。その経験が、大人になってから小説を書いてみようと思うきっかけにもなったそうです。

中村さんが、小説を書く上で大切にしていることを聞いてみました。「小説は言葉でいろいろな空想の世界や物語を描くことができます。でもそこに現実味がないと、読者にその世界が伝わりづらくなってしまいます。ですから、読者に『この小説で描かれていることは、世界のどこかに本当にある』と肌(はだ)で感じてもらえるように工夫することを大切にしています」。言葉だけで表現することのむずかしさと奥深さが伝わってきます。

さらに、ボクシングをテーマにした小説を書いたときは、ボクシングについて本で調べることはもちろん、試合を観戦したり、ボクシング選手に何度もインタビューをしていろいろなお話を聞いたりもしたそうです。頭で考えるだけではなく、外に出て、自分の目や耳、肌で感じて体験することも、現実味のある、おもしろい小説をつくるためには欠かせないようです。

小説家になるには?


特に資格は必要ありません。文芸誌などの新人賞の受賞をきっかけに小説家としてデビューするのが一般的(いっぱんてき)です。ほかにも、出版社に作品を持ちこんだり、自分でお金を出して本をつくって出版したりするという方法もあります。学生時代から小説家デビューするひと、仕事や子育てと両立しながら書くひとなど、作家活動の仕方はさまざまです。

最後に、中村さんから小説家をめざすみなさんへ、アドバイスをもらいました。「好奇心(こうきしん)が大切です。小説家って知っていることを書いているように思われますが、自分の知りたいことを書くんです。知りたい、見たい、やってみたい、そういうものを大事にしてください。あとは、『これはどうしてこうなっているんだろう』と疑問をもって、調べて、考えてみることです。そこで興味をもって考えたことは、大人になってもきっと記憶に残ります。そしてそれが、あなたの小説のテーマになるかもしれません」。


※2020年12月現在

※取材・撮影は感染対策をほどこした上で、マスクを外した状態で行っています。

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姫路文学館

2016年7月にリニューアルオープンしました。北館の常設展示室には、姫路城の立つ姫山の歴史とそこで生まれた物語を紹介する〈姫路城歴史ものがたり回廊〉、作家たちの印象的な言葉や人生にふれる〈ことばの森展示室〉、定期的に展示内容を入れ替える〈企画展示室〉などがあります。映像やタッチパネルも豊富で、見る人の興味に合わせて、楽しみながらご覧いただけます。 南館は入館無料となっており、司馬遼太郎と播磨との関わりについて展示する〈司馬遼太郎記念室〉のほか、親子で過ごせる「よいこのへや」や、カフェ、図書室などがあります。絵本や児童向け図書も揃えておりますので、ぜひご利用ください。

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