声と言葉でキャラクターに命を吹きこむ、声優の仕事

2021.05.14 おしごと発見!

おしごと発見!

声優

声優は、映像作品に声で出演する仕事です。アニメのキャラクターの声をはじめ、CMやテレビ番組のナレーションなど、その種類・ジャンルは多岐(たき)にわたります。声でキャラクターに命を吹きこみ、作品の世界をつくる。エンターテインメントを彩(いろど)る存在として、大切な役割を担(にな)います。[取材:アクロスエンタテインメント 帆世(ほせ)雄一さん]

得意分野やスタイル、さまざまな声優の仕事


アニメやゲームのキャラクター、テレビ番組やCMのナレーション、海外の映画やドラマの日本語吹き替えなど、映像作品から聞こえてくるその声の多くは、声優によって吹きこまれています。声優のおもな仕事場は、録音スタジオです。外の音が入ってこない密室(みっしつ)でマイクの前に立ち、目の前のモニターに流れるアニメや映像にあわせて、声を吹きこんでいきます。

数人の声優が、1本のマイクを前にうまく入れかわり立ちかわりしながら、自分の出番が来るたびにマイクの前に出て声を吹きこむ現場もあります。スタジオの横にある部屋では、監督やディレクターがその声をチェックしており、ときには、理想の声を録音するために、何度も同じセリフのテイクを重ねることもあります。

声優とひとくちに言っても「海外俳優の吹き替えを得意とする声優」や「顔は出さずにナレーションの仕事にこだわる声優」など、働き方やスタイルはさまざまですと帆世さんは話します。さらに、最近では活躍(かつやく)の場が広がり、アニメの主題歌をうたったり、アニメ作品のイベントに「キャラクターの声の人」として出演したりすることも。帆世さんは、おもにテレビやラジオのナレーションで経験を積み、現在はアニメや吹き替え作品の声優や朗読劇(ろうどくげき)の出演、キャラクターに扮(ふん)したイベントでのパフォーマンスなど幅広く仕事をしています。

声を使い分けて、作品の雰囲気(ふんいき)や世界を引き立てる


ときには明るく陽気な声で、ときには重みのある落ち着いた声で。声優は、作品や番組の雰囲気にあわせて声を使い分けます。そのために、声だけでさまざまな表現ができる技術を身につけることが大切です。

「たとえば、ナレーションの仕事ひとつにしても、テレビのバラエティ番組ならノリのいい感じで、ドキュメンタリー番組であれば淡々(たんたん)と語りかけるように、商品のテレビCMであれば声の調子を上げ下げする独特(どくとく)なイントネーションを使ったりします。声優さんによっては、テレビのバラエティ番組を専門的(せんもんてき)にやっている方もいるくらい、それぞれのジャンルに特徴がある世界です」。

声優の仕事は声が命。カゼを引いて声がかれてしまったりしてはいけません。毎日の体調管理はもちろん、喉(のど)をきちんとケアすることが必要です。帆世さんは、睡眠と水分をとることがいちばんと話します。さらにケアの方法のひとつとして、喉に効果のある成分が入った海外のハーブティーや漢方などを持ち歩いているそうです。また、ナレーションでは言葉を正しく発音することも求められます。そのために、現場で音声付きの辞書アプリをつかって、常に正しい発音やイントネーションをチェックできるようにしています。

表現力を活かしてオーディションから声優へ


デビューから10年。声優として活躍している帆世さんですが、学生時代は俳優をめざしていたそうです。「もともと人前に立って自分を表現することが好きで、高校生のときには演劇の主演を演じたこともありました。あこがれのハリウッド俳優との共演を夢見て役者をめざしていましたが、英語があまり得意ではなかったんですね。それだったら、映画の日本語吹き替え版で、あこがれの海外俳優と声で共演しようと思ったんです」とふりかえります。「声優になると決めたときから、僕はアニメやテレビを見ながら、いろいろな声優さんのモノマネをして練習していました」と教えてくれました。

その後、新人オーディションで事務所との契約(けいやく)が決まり、声優デビュー。思い出深いエピソードを聞くと、新人のころに、事務所の先輩でもあり、日本を代表する声優のひとりである山寺宏一さんと一緒に番組出演した3年間をふりかえり、「山寺さんに、映像にあわせるだけじゃなく、流れている音楽もよく聞いて、声の調子を変えた方がいいよ」とアドバイスをもらったことと話します。

「たとえば、かわいい動物を映したのんびりした映像でも、音楽がテンポの速い曲であれば、その映像にも音楽にも合うような声の調子にすることが大切。山寺さんに教わりました」。アフレコと呼ばれる声優の声入れは、作品づくりの最後に行われます。映像と音楽がひとつになって完成したものに声を乗せる、その大変さと奥深さが伝わってきます。

声優になるには?


声優になるには、声優の養成所(ようせいじょ)に通った後にオーディションを受けて事務所に所属するのが一般的です。「多くの人は、養成所で声優としての知識と技術を学んでからこの業界に入ってきます。僕は、声以外の表現力を身につけたいと考えて大学の芸術学部に進学して、演劇の勉強をしてから、卒業後に事務所のオーディションを受けました。ですから、現場でのマイクの使い方など、声優の基礎の多くを事務所に入ってから学びました」。

最後に、声優をめざす上でのアドバイスをもらいました。「自分が楽しいと思うことに、全力で取り組んでください。声優が演じる役は、高校生役もあれば、ドラゴンと戦うキャラクターの場合もあります。どんな役を演じることになっても、そのキャラクターの気持ちや感情を声に乗せる仕事だからこそ、いままで自分が経験した楽しかったこと、つらかったこと、そのすべてを活かせる仕事です。そして、きっとそれが声優としての個性にもなる。声優は、たくさんの人を笑顔にできる素敵な仕事です。ぜひチャレンジしてみてください」。


※2021年3月現在

※取材・撮影は感染対策をほどこした上で、マスクを外した状態で行っています。

※一部、新型コロナウイルス発生前の現場の様子を描写している部分があります。