乗客を安全に目的地へ送り届ける、地下鉄運転士の仕事

2021.05.14 おしごと発見!

おしごと発見!

地下鉄運転士

人口が多い大都市に欠かせない公共交通機関、地下鉄。毎日多くのひとが利用しており、首都を走る東京メトロの1日あたりの延べ利用者数は700万人以上にもなります(2019年度データ)。停まる駅が多い路線で、秒単位のダイヤを正確に走り、安心安全な運行を担(にな)うのが地下鉄運転士の仕事です。[取材:東京地下鉄株式会社 運転士 島根宣仁さん]

運転士にあこがれたのは大人になってから


鉄道好きな子どもたちの夢の職業、運転士。「東京メトロ」でおなじみの東京地下鉄株式会社で運転士を務める島根さんに、子どものころから運転士をめざしていたのですか?と質問すると、「実はそうではないんです。もともとは子どもたち向けの水泳のインストラクターをやっていて、あくまで転職先(てんしょくさき)のひとつとして魅力(みりょく)を感じて東京メトロに入社しました」という意外な答えが返ってきました。島根さんのように、他の鉄道会社や別の業界から、東京メトロへ転職してくるひとも少なくないとのこと。

東京メトロには、3つの運輸職種があります。駅構内の安全管理やお客様の案内などを担当する「駅係員」、電車に乗ってドアの開閉や車内放送などを担当する「車掌(しゃしょう)」、そして電車を運転して乗客を駅から駅へと送り届ける「運転士」です。入社後は、まず駅係員として勤務します。その後、社内試験を受けて合格すると、車掌や運転士として活躍(かつやく)することができます。

島根さんは駅係員として働くなかで、「鉄道会社に入ったからには電車に乗る職種をめざそう」と、入社から1年半後に車掌試験を受けて合格。そして車掌になってから、今度は魅力的(みりょくてき)な運転士の先輩たちとの出会いによって、運転士をめざすことになります。

島根さんが、車掌になったばかりのころ、同じ電車に乗る運転士に自身の失敗を何度も助けられたそうです。「車掌は、手でスイッチを操作して電車のドアの開閉をするのですが、朝の通勤ラッシュの時間帯はドアを閉めるタイミングがむずかしいんですね。当時はまだホームドアがなくて、乗客が電車にもホームにもあふれている状況で、急いで電車にかけこんでくる方もいるので、安全確認に時間がかかったり、閉めるのにとまどってしまったりして、ダイヤに遅れを出してしまうことが度々ありました。でも運転士の方たちはいやな顔ひとつせずに、安全の範囲内(はんいない)で速度を上げて電車を走らせて、遅れた時間を挽回(ばんかい)してくれたんです。その姿がかっこよくて、頼(たの)もしくて。あこがれました」。

運転士を間近で見るうちに、自分もなろうと決めた島根さん。その後、運転士になるための試験を受けて合格を果たしました。

運転士は「止める」ことが大切な仕事


16年もの間、有楽町線の運転士として活躍しつづけている島根さん。運転でいちばん大切なことを聞くと、「制動(せいどう)です」という答えが返ってきました。制動とはブレーキをかけること。走らせることよりも、止めることが大切というのは意外です。「運転士はいつも同じ電車を運転するわけではありません。この電車はブレーキがききやすいけれど、あの電車はききが弱いといったように、それぞれの車両にブレーキのクセがあるんですね。それに対応して運転しなければなりません。一台一台のクセを覚えていても、実際に運転するとなると、これがなかなかむずかしい。ですから、運転しながら体にたたきこんでおぼえていきます」。

ベテランの島根さんですが、16年間で一度だけ、運転士1年目のときに、駅ホームの所定停止位置から2メートルほど行き過ぎてしまったことがあったと言います。「その電車のクセを習得できていなかったのが原因でした」とふりかえります。知識だけではなく、運転感覚をみがくことも欠かせない仕事です。

安全のプロフェッショナルとして


有楽町線は10両編成で、ピーク時の乗客率は200%。数えきれないほどの多くの命をあずかる仕事。安全な運行のためには、毎日の体調管理も大切です。「運転中に体調を崩(くず)すわけにはいかないですし、朝早かったり、夜遅かったり、泊まりこみがあったりと担当乗務に合わせて勤務時間もさまざまです」。運転士の出退勤時間は、地下鉄のダイヤに合わせて分単位でこまかく決まっており、毎日変わります。

たとえば、午後3時ごろの出勤のときには、3往復乗務をした後、仮眠をとり、翌朝5時から1〜2往復乗務をして、午前9時ごろ退勤になります。「1日をトラブルなく終えられたときは、ホッとします。降りて引きつぎをして、自分が運転していた車両をふと眺めると、『ああ、こんな大きなものを無事に動かすことができたんだな』と、いまだに思いますね」。

地下鉄運転士になるには?


鉄道運転士は「動力車操縦者運転免許」という国家資格。鉄道会社に入社後に資格を取得するのが一般的です。東京メトロの運輸職種では、高校卒業以上が条件で、年齢制限(ねんれいせいげん)については毎年の採用サイトを確認する必要があります。

島根さんは、社内試験合格後に総合研修訓練センターで約4ヶ月間学び、現場での運転操縦指導を終えたのちに国家資格を取得しました。「総合研修訓練センターでは、列車や運転に関する知識はもちろん、不測の事態におけるトラブル対応、それからシミュレータを使った運転の訓練も行いました」。

島根さんは東京メトロ独自の「運転部技能水準認定制度」において、社内でも数少ない上級運転士。いまも、特級運転士をめざして勉強に励んでいます。

「運転士は学びつづける仕事なので、それが苦にならないひとが向いていると思います。最初の試験だけではなく、変わっていく技術や安全基準について理解し、忘れないように復習し、実技をみがき、あらゆる不測の事態に対応できるように知識の幅を広げています」。


※2021年3月現在

※取材・撮影は感染対策をほどこした上で、マスクを外した状態で行っています。

見学・体験してみよう

地下鉄博物館

地下鉄博物館は、多くの皆様、ことに小・中学生など若い世代の方々に、地下鉄をより一層理解していただきたいと願ってつくられました。地下鉄の歴史から新しい技術までを、「みて、ふれて、動かして」学習できる参加型ミュージアムです。

〒1340084 東京都江戸川区東葛西6-3-1
TEL:03-3878-5011

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