人命救助のスペシャリスト、消防士(救助隊)の仕事
おしごと発見!
消防士
市民からの119番通報(つうほう)をうけて、火災や救助の現場へ。街とその街に住むひとびとを火事や事故から守り、救助するのが、消防士の仕事です。消火だけではなく、脱出(だっしゅつ)できなくなったひとを助けたり、急病人の手当てをしたりするのも消防士の役割。彼らの活躍(かつやく)によって、多くの命が守られています。[横浜市消防局 保土ケ谷消防署 西谷消防出張所 隊長 早坂海斗さん]
危険な現場で人命を救助する
消防士の仕事は大きく3つにわけられます。火災現場にいち早くかけつけて火を消す「消防隊」。火災や事故にあったひとを助け出す「救助隊」。救急車に乗って、ケガ人や病人の応急処置(おうきゅうしょち)をして、病院へ送り届ける「救急隊」。さらに、街にある建物できちんと防火・防災の対策(たいさく)がされているかをチェックする予防業務もあります。
消防士になって15年の早坂さんは現在、現場で救助活動を行う特別救助隊(YR:横浜レンジャー)の隊長として活躍しています。「火災現場であれ、事故現場であれ、とにかく救助が必要な方に向かってつき進み、命を守ることが私たちの仕事です」と話します。
消防隊と協力して、燃えさかる建物に突入(とつにゅう)して、逃げおくれたひとを助け出す。あるいは、水難事故(すいなんじこ)にあったひとを、海や川の中から引き上げる。自らの危険をいとわず、これまで多くの命を救ってきました。「救助したご本人やご家族の方が出張所まで訪ねてきて、感謝のきもちを伝えてくれることもあります。ひとのために、世の中のために役立つ仕事ができていると実感できたときは、やりがいを感じますし、うれしいですね」。
反対に、現場で命を落とされた方の遺族(いぞく)に「なんて声をかければよいかわからなかった」という経験もあったそうです。人命救助を担(にな)う仕事にかける誇(ほこ)り、そして責任の重さが伝わってきます。
出場要請(ようせい)から1~2分で消防車に乗りこむ
火事や事故はいつ起こるかわかりません。ですから、いつでも出場できるように消防出張所には24時間、消防士が待機しています。そのため西谷消防出張所では、2つの班にわかれて1日ごとに交代で勤務を行っています。「当番」の日は、朝8:30に出勤して翌朝8:30まで勤務。勤務明けは「非番」となり、帰宅して体を休めます。当番の日は、24時間勤務になりますが、休憩(きゅうけい)や仮眠(かみん)の時間もあるため、実際の勤務は約15時間。
勤務中は、消防車や救急車の点検(てんけん)、訓練・トレーニングなどを行いながら、司令センターからの出場要請にそなえます。休憩や仮眠中、ときには入浴中に出場の要請がかかることもあり、かたときも気がぬけません。
「要請が来たら、たとえ仮眠中でも、おおよそ1~2分で出場します。防火服に着がえながら、司令センターから届いた現場の地図や周辺の状況(じょうきょう)をまとめた指令書を確認して、すぐ消防車に乗りこみます」。サイレンを鳴らして現場へ向かう途中も、司令センターと無線でやりとりしながら現場の状況を確認して、車内で必要な機材を準備します。「現場に着いたときには、すでに救助を必要としているひとの心臓(しんぞう)が止まっていて、一刻も早く病院に運ばなければならない状況も経験しました」と話す早坂隊長。数秒数分の差で生死がわかれる、とてもきびしい仕事です。
火事や事故のほかにも、お正月にお餅(もち)をのどに詰まらせたひと、夏に熱中症(ねっちゅうしょう)にかかったひとやエレベーターに閉じこめられたひとのレスキューも救助隊の仕事。さまざまなケースがあり、時期によって変わりますが、隊員1名につき1ヶ月でだいたい20回ほどの出場があるとのこと。この取材当日も、2時間のインタビュー・撮影(さつえい)の間に、数回の出場要請があり、そのたびに出張所に緊張(きんちょう)が走りました。
人のためになる仕事をしたくて、消防士の道へ
「高校卒業後、人のためになる仕事がしたいと思ったとき、まっさきに思いうかんだのが消防士だった」と話す早坂隊長。小さいころから消防車が好きで、ひとの心をもつ消防車が活躍するお話を描いた絵本が大好きだったとのことで、「それもルーツかもしれません」とふりかえります。
現在、隊長として現場に立つ早坂さんですが、日々、訓練と勉強を積み重ねています。火災に対応するためのガスや危険物の取りあつかい、交通事故に対応するための車のしくみに関する知識、海での事故に対応するための潜水士(せんすいし)の資格取得など、さまざまな状況に対応するために、より専門的な知識と技術が必要です。
さらに横浜市消防局には、大きな災害で活躍する「特別高度救助部隊」(SR:スーパーレンジャー)という精鋭部隊(せいえいぶたい)があります。総合指揮車のような特殊な車両の作戦室で現場を指揮するほか、電磁波探索装置などの資機材(しきざい)に関する高度な知識・技術をもつ隊員たちです。横浜市消防局の救助隊員約300人に対して、スーパーレンジャーはわずか40人。狭(せま)き門ですが、早坂隊長は「より多くの命を救うために、スーパーレンジャーをめざしたい」と力強く語ります。
消防士になるには?
各自治体が行う消防士採用の地方公務員試験に合格する必要があります。受験資格は自治体によってちがいますが、多くの自治体で30~35才程度までの年齢制限(ねんれいせいげん)があります。そのほか、視力や聴力(ちょうりょく)などの身体的条件がある場合も少なくありません。それぞれの自治体のホームページなどで受験資格を確認しましょう。
最後に、早坂隊長からメッセージをもらいました。「消防士には、一般企業(いっぱんきぎょう)から転職してくるひとがめずらしくありません。元警察官のひと、プロスポーツ選手を引退して消防士になるひともいます。別の仕事へ進んだあとでも、消防士になるチャンスはあるので、ぜひ挑戦してみてください。体力はもちろん求められますが、それ以上に、私はやさしい心をもっているひとが消防士に向いていると思います。他人を思いやるきもちこそが、救助活動の原動力です」。
※2021年3月現在
※取材・撮影は感染対策をほどこした上で、マスクを外した状態で行っています。
見学・体験してみよう
日野オートプラザ
「日野オートプラザ」は、トラックやバスを作っている日野自動車の歴史と技術を紹介する施設です。入口正面では、砂漠を走るダカールラリーで優勝したトラックが皆さんをお迎えしています。ボンネットトラックの消防車や、世界で初めて販売されたハイブリッドバスも展示しています。館内に入ると最初に目に入るのは、日本初の量産型トラック TGE-A型(レプリカ、経済産業省の近代化産業遺産に認定)です。それからエレベーターで2階に上がると、日野自動車の歴史と製品を紹介するパネルや、子供たちに人気のミニカーで街を表現したジオラマを見ることができます。さらに、スロープを降りるときに全体を見渡せる1階の円形展示場には、むかし日野自動車が作っていたコンテッサ、ボンネットバス、エンジンなどが展示されており、ボンネットバスの車内に入ってみることもできます。
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