海で長い棒のついたマイクを掲げているあのひと、何してる?

2022.08.25 あのひと何してる?

ドラマの録音技師(ろくおんぎし)

写真は、東京湾でテレビドラマの撮影を行うスタッフの様子。長い棒のついた「ガンマイク」(狙った方向にある、特定の音を捉えられる指向性の高いマイク)を掲げているのが、録音技師の助手だよ。ドラマの撮影現場にはたくさんの芸能人がいて、病院のヘリポートや自衛隊基地などの珍しい施設にも入れるから華やかそうだね。でも、録音技師の仕事は、地道で堅実な作業の積み重ねなんだって。(写真提供/株式会社ビデオスタッフ)

ドラマの印象を左右する。俳優のセリフを録音する音の専門家


テレビドラマの収録現場で、俳優のセリフを録音するのが録音技師の仕事です。現場で最も良い音がとれる位置にマイクをセッティングする「録音助手」と、マイクで集めた音の良しあしを判断し、作品全体の録音プランを考える「録音技師」という2つの職種で音を担当しています。

現場で録音助手の集めた音をチェックする録音技師。雑音の有無や、セリフのイントネーションなど、不自然な音がないかを確認する。外国人俳優の発音がナチュラルな日本語に聞こえるように、セリフを変える提案をすることもある

撮影に入る前は台本を読み込んでそのシーンの意味を理解し、俳優の感情や置かれている状況から、どのようにお芝居が展開されるのかをイメージします。何度も読んで実際にセリフを言っているうちに撮影現場が頭に浮かぶので、マイクを設置する位置に見当をつけながら撮影に備えます。


現場で録音するマイクは、写真のような「ガンマイク」と 俳優の服の下に仕込む「ワイヤレスマイク」の主に2種類があります。事前のリハーサルで俳優の動きを把握し、ガンマイクが映像に映り込んだり、照明によるマイクの影が俳優に出ないように、カメラマンや照明スタッフとマイクの位置を打ち合わせます。また、足音、物音、セミの鳴き声といった環境音はセリフの明瞭度を下げる(はっきり聞こえなくする)うえ、シーン自体をNGにすることもあります。ハイヒールの裏に柔らかいテープを貼ったり、セミを排除したりしながら、2種類のマイクを駆使してできるだけクリアなセリフを録音する工夫をしています。


撮影後は、コンピューターの専門機材を使用してセリフの音質を修整。より自然に聞こえるように部分的に声を差し替えたり、 若干スピードに変化をつけたりしてドラマに臨場感をもたせる芝居になるようにアレンジすることもあります。

ガンマイクの特徴は、人間の耳に聞こえている音をリアルに再現できること。マイクが離れると拾える音も遠くなるため、距離感を測ることが重要

音は聞こえて当然だと思われていますが、録音技師によって初めて視聴者の耳へ届きます。確かな技術が拾う音によって、視聴者はドラマの世界へといつのまにか引き込まれているのです。

どうしたらドラマの録音技師になれるの?


映画、映像、写真分野などの専門学校や大学を卒業後、映像制作会社などに就職します。まずはアシスタントとして現場経験を積むのが一般的です。

協力/株式会社ビデオスタッフ

取材・文/内藤綾子