茨城県大洗町の小・中学校で実践中の「おしごと年鑑」を活用したキャリア教育授業。大洗町立南中学校で2022年12月に行われた「働く人の話を聞く会」では、「おしごと年鑑」掲載の企業3社から、生徒たちがオンラインでの出張授業を受けました。そのうちの1つ、イオンペットの授業の様子をご紹介します。
- 実践校
- 茨城県大洗町立南中学校
- 学年
- 中学2年生(2022年度)1クラス計32人
- 授業
- 総合的な学習の時間(キャリア教育として)
- 時間
- 2コマ(2022年12月21日)
- 使った教材
- 『おしごと年鑑2022』
- ゲスト講師
- イオンペット株式会社
介護する飼い犬と一緒に
代表生徒が挨拶をし、講師を務めるイオンペットの鈴木真紀さんの名前を紹介したあと、授業が始まった。オンライン授業のためモニター画面越しだが、生徒たちは普段と違う雰囲気のためか、少々緊張気味だ。その上、画面の向こうの鈴木さんが肩から抱っこひもを下げ、その中にモコモコとしたかたまりを抱えているのも気になる。
それが何かは、すぐに鈴木さんが説明してくれた。「私の飼い犬のトイプードルで19歳、人間でいえば100歳近くです。脚の腱が切れて歩けず、介護が必要な状態です。1人にしておくと転んで鳴いてしまうので、抱っこさせてもらったままお話しますね」。生徒たちの目が丸く見開かれた。
ペットを扱う総合会社
最初に、会社であるイオンペットについて紹介があった。「PETEMO(ペテモ)」という屋号でペットのグルーミング(トリミング)サロン運営のほか、ペット用品販売、ペットホテル、動物病院、しつけ教室などを全国約200か所で展開する、イオングループのペット専門会社だ。
鈴木さんは現在、管理本部総務法務部という部署にいるが、グルーマー(ペットの美容師でありケアをする人)歴は20年以上。数々のサロンで働き、トリマーの専門学校で講師を務めたこともある。飼っているトイプードルは自宅で生まれ、人口哺乳で育ててきたという。そんな鈴木さんの経験から、会社説明の後は生徒たちにペットを飼う上で知っておいてもらいたいことが語られた。
ペットがいる生活から学ぶこと
画面には、黒と黒白の2匹のネコが映し出された。イオンペット本社で飼っている兄弟ネコだ。同社は社会貢献活動の一環として、「ライフハウス」という保護動物を譲渡する施設を運営している。縁あって3年ほど前に本社にやってきたこのネコたち、小さい頃は会社の机を漁ってモノを持ち出すなどかなりのいたずら好きで、社員たちはその都度、引き出しにチャイルドロックをかけたり、足元にあるゴミ箱を廃止したりと対策を繰り返し、しばらくはイタチごっこが続いたそうだ。
生徒たちは、引き出しに手をかけるネコの様子とその話に目を細めていたが、鈴木さんから「誤食」という言葉を聞くと、はっとした表情になった。好奇心旺盛なペットが食べてはいけないものを口にすると腸が詰まったり、中毒を起こしたり、場合によっては数時間で死に至ることもある。ペットと暮らすためには、常にその動物に合わせた危険のない環境を整える必要があるのだと鈴木さんは訴えた。
「よく、飼っているペットに『いたずらされた』という風な表現をしますが、これはいたずらをするのが悪いのではなく、飼い主がいたずらできる環境にしてしまっていた、ということなんですよ」という鈴木さんの言葉に、生徒らはなるほど、うなずいた。
グルーマーの仕事とペットの日常生活
次に、店舗で行われているグルーミングの仕事について紹介された。受付では、まずペットの最近の様子や日常の動作について聞き、飼い主も気づいていないようなペットの体調などの変化を予測するという。一口に、「寝る時間が増えてきた」といっても、体調が悪くて眠る時間が増えているのか、足腰が痛くて立てずに眠っているのか、それとも加齢で体力が衰えているのかなど、いろいろな可能性がある。少ない情報から原因を見極め、その日の施術はどうすればペットへ負担が少なくできるかを考える。状況によっては別日でのグルーミングを勧めることもあるそうだ。
ちなみに、一般的にペットのカットは「トリミング」といい、その専門職を「トリマー」というが、イオンペットでは、ペットのケア全般をトータルコーディネートするという意味で「グルーミング」という言葉を使い、その職を「グルーマー」と呼ぶ。生徒たちはその意味や、仕事上で必要な気配りについてもメモをとっていた。
その後は、自宅でも実践できるグルーミングとして、散歩後に足をふくときにチェックすべき爪や足の状態について、またペットの歯磨きがなぜ大切か、どうすればうまく習慣づけられるかなど、ペットの世話で大事なことが伝えられた。
仕事の魅力と喜び
グルーマーの仕事の魅力について語る場面では、さまざまな種類の犬たちが特徴的なカットを施された写真が映された。「同じ犬種でも、その子の顔の骨格や筋肉のつき方、毛の流れや毛質によってカットを変えていくことも大事です」と鈴木さん。サロンでの受付時にそれを見抜いて提案ができると、「信用できるあなたにお願い」といった嬉しい言葉をもらうことがあるそうだ。
質疑応答では、「休みは週に何回あるか」「1匹のカットにどのくらいの時間がかかるか」といった仕事に関するものから、「犬を洗うコツは?」「好きな犬種は?」などのペットに関するものまでいろいろな質問が出た。「1日に最大何匹にグルーミングをしたか」という問いに、「一般的には4、5頭ですが、私は手が早いほうなので、最大で15、6頭をシャンプー&カットしたこともあります」と鈴木さんが答えると、生徒は驚いた様子だった。
最後に、「仕事のやりがい」について尋ねられた鈴木さんは、こう答えて締めくくった。「ペットを素敵に仕上げると、飼い主さまが喜んでくれます。そんな喜ぶ飼い主を見ると、ペットも嬉しそうになるんですよ。この様子を見る瞬間が、一番やりがいを感じますね」
授業後に感想を聞くと、ある生徒は「ずっとネコを飼いたいと思っていたんですけど、今日のお話を聞いて、ペットの一生を預かる責任や共存ということをすごく考えさせられました」と答えてくれた。鈴木さんの腕の中で、ずっと静かにうずくまっていた老犬の姿にも感じるところがあったようだった。
出張授業後の先生のコメント
海東美ゆき 教諭
ペットを飼っている生徒もそうでない生徒も、興味を持って話を聞いていました。子どもたちはやはり動物が好きなのでペットショップで犬やネコを見ることはあるでしょうが、トリミングなどの専門職の方にお話を聞ける機会はそうそうありません。今まで考えてなかった職業に興味を持つきっかけになったのだと思います。子どもたちに合わせた内容のお話をしてくださって、ありがとうございました。
ゲスト講師から
鈴木真紀さん
イオンペット株式会社
総務法務部
今回は私自身、動物たちとの共生について考え直す良い機会となりました。また、グルーマーは、動物が相手と思われがちですが、実は人を挟んでペットの状態を知るという接客業であることが伝わったのであればよかったです。会社のペットとなった保護犬猫については、捨てられた動物というイメージを持たれがちですが、実はその多くは迷い犬猫。人が守ってあげなければいけないことがわかってもらえたらうれしいですね。命の尊さを理解しながら、若い世代が成長していくことを願っています。