

阿部朱美さん
フリーランス日本公演でも「映える」衣裳に
衣裳補とは、海外の作品を日本で上演する時、本国からやってくる衣裳スタッフをサポートする人のことです。
阿部さんはいま、東京のTBS赤坂ACTシアターで上演中の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』で、衣裳補をしています。
こうした海外の舞台作品の場合、衣裳デザインは決まっていることが多いといいます。今回も、登場人物の衣裳のほとんどがイギリスでつくられています。
阿部さんは、はじめに俳優のウエストなど、体のサイズをはかる採寸をします。日本の俳優の体格に合わせたオーダーメイドでつくるからです。
衣裳が日本に届いたら、俳優に実際に着てもらって仕上がりをたしかめます。「オーダーメイドの衣裳でも、お直しは必ずあります」と阿部さん。
パンツのポケットから小物をスムーズに出し入れできるか、ひざの曲げのばしはきゅうくつでないかなど、動きながら着心地をたしかめます。直すべきところを洗い出したらイギリスへ送り、調整してもらいます。
上演がはじまったら、衣裳補の仕事はおわりです。上演中の衣裳にかかわることは、衣裳部とよばれるチームにバトンタッチします。
- 1960年
- 神奈川県生まれ
- 小学校時代
- しゅみで洋裁をしていた母の影響で、糸と針でよく遊んでいた
- 中学校時代
- ミシンで洋服をつくっていた。部活は合唱部でメゾソプラノを担当
- 高校時代
- 湘南学園中学校高等学校へ進学。演劇部に入り、演じることに興味をもつ
- 大学時代
- 玉川大学へ進学し、演劇を専攻。役者や裏方の仕事を経験して、衣裳づくりに魅力を感じる。大学卒業後は衣裳制作の会社でアルバイトをしながら、自分はどんな衣裳をつくりたいか探った
- 1987年~
- 劇団「花組芝居」の立ち上げに加わり、衣裳を担当
- 2005年~
- フリーランスで活動しながら、世田谷パブリックシアター技術部で、上演作品の衣裳を手がける
- 2014年~
- フリーランスでさまざまな舞台に関わる
舞台上での調和が大切
「舞台衣裳は、どれほど美しくつくれたとしても、それだけでは評価はされません」と阿部さん。というのも、実際に舞台に立った役者が、いかにきれいに見えるかが大切だからです。
舞台は総合芸術といわれます。美術や照明、小道具や音楽など、舞台を成り立たせる要素はたくさんありますが、衣裳はそのうちのひとつ。舞台にならんだ役者の、衣裳のデザインや色の調和が美しくとれているとうれしいといいます。「やっていてよかったと思う瞬間です」
この仕事に興味がある人は、「今からいろいろな舞台を見てほしいです」
なるためには?
衣裳の仕事は、フリーランスで働く人がほとんどです。作品ごとに契約し、次の仕事は人づてに見つけることが多いです。なので、衣裳の仕事につくきっかけは見つけにくいかもしれません。まずは、服飾デザインの専門学校や大学の演劇科で学ぶとよいと思います。それから、気になる劇団や舞台の制作側に仕事をしたいと、積極的に連絡をとってみてください。現場でやってみるとやっぱりちがうなと思うかも。経験が大事です。
必要な道具は?
作業に必要な道具をおさめた衣裳エプロン。針と糸、はさみなどが入っています。よく使うのが安全ピン。役者が着ている衣裳のそでが長い時などに、ひとまず、とめておくのに便利だといいます。

つながり多いのは
いちばん関わりが多いのはヘアメイクさん。小物やくつの担当者ともよく打ち合わせをします。衣裳の仕事は、役者の上から下までをそろえるので、ちぐはぐにならないように、すべてのバランスを見ながら作業しています。衣裳合わせの時は、かつらや帽子、小物類も一緒に合わせます。かつらや帽子を見て、衣裳のボリュームを変えることもあります。舞台によってはすべりやすいことも。その場合はくつの裏にゴムをはって工夫します。
2025.9.1付 朝日小学生新聞
構成・戸井田紗耶香
毎週月曜連載中の「教えて!〇〇のしごと」から記事を転載しています。
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