中井はるのさん
外国語をやさしく、日本語に
これまでに「グレッグのダメ日記」や「ワンダー」シリーズなど、英語の児童書を中心に翻訳してきた中井さん。訳す本は、自分で見つけたり、出版社の編集者からすすめられたりして決めます。
編集者とスケジュールを決めると、一度ざっと全体を訳します。気になるところがあれば、原作者に聞いたり、その分野にくわしい人に取材したりして確認します。「特に確認するのはきょうだい関係。英語では『兄』も『弟』も同じ単語だからです。物語に直接関係ない部分でも、どうしてそう書いたのか、背景を聞くようにしています」
児童書の翻訳は、ただ訳すのではなく「やさしい言葉でわかりやすく、子どもに届く言葉で伝えること」が大切だといいます。編集者とやりとりをくり返して修正を加え、翻訳が完成します。デザイナーが表紙や本文のデザインをして、本ができあがります。
中井さんの仕事場には、資料がたくさんつまった本棚があります。翻訳する作品の舞台である地域や時代を調べるためのものです。時には現地に足を運ぶこともあるそうです。「実際に見ると物語の世界がすごくわかってくるんです。作品の背景や舞台をまず理解することが、翻訳の基本だと考えています」
小さいころから物語を読んだり、書いたりするのが好きでした。本や言葉の仕事は、ずっと意識していたかもしれません。中学生の時は、「ピーターラビット」シリーズや『海底2万マイル』をよく読んでいました。
銀行を退職したあと、アルバイトで翻訳に関わるようになりました。仕事と子育てに追われて追いつめられていた時期に、子どもに絵本を読み聞かせることがすごく救いになりました。子どもの本にお返しがしたい、関わりたいと思ったのがきっかけで、児童書の世界に入りました。
- 小学校時代
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英語が身近で、将来は国同士を結ぶ仕事がしたいと思っていた
- 中学校時代
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引っこみ思案だった。折り紙や時代劇にはまる
- 高校時代
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美術部に入り、デザインに興味を持つ
- 大学時代
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英文科に進む。英語でディベートする部活に入る
- 翻訳の世界に
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銀行を5年ほどで退社し、翻訳の仕事を始める
- 2008年
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『グレッグのダメ日記』を翻訳
文化に合わせ言いかえも
原作が書かれた国と日本では文化がちがうため、子どもには伝わりづらい表現が出てくることもあります。たとえば、ペットの動物が日本では飼えなかったり、子どもに対して『軍隊の学校に入れるぞ』と言うシーンがあっても日本にはなかったり。「日本の文化にあわせた言いかえや、注を入れることもあります。さし絵と食いちがわないようにするのがむずかしい点です」
その中で、いい言葉がうかぶと『やった!』と感じるそうです。「なにより、読んでくれた人がおもしろかった、ここが良かったと感想をくれることがうれしいですね」
2023.1.16付 朝日小学生新聞
構成・小勝千尋
イラスト・たなかさゆり
毎週月曜連載中の「紹介します 〇〇のしごと」から記事を転載しています。
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