コンサバター(保存担当学芸員) のしごと

2022.09.13 紹介します○○のしごと

奈良国立博物館のコンサバター(保存担当学芸員)、荒木臣紀さん
温湿度計を手にし、仏像のまわりの環境を確認する荒木臣紀さん=2022年4月、奈良市の奈良国立博物館
奈良国立博物館のコンサバター(保存担当学芸員)、荒木臣紀さん

荒木臣紀さん

奈良国立博物館 保存修理指導室(奈良市)

文化財を守り後世に伝える

コンサバターは、英語の「conserve(将来のために保存・保護する)」という言葉から想像できるように、仏像や絵画などの文化財を守り、後世に伝える仕事です。「博物館は、訪れた人たちに作品を楽しんでもらい、保存する施設。展示すれば作品の状態は悪くなり、収蔵庫に置いておけば人の目にふれない。この二つを両立させるのが、コンサバターです」と荒木さん。

文化財は光や温度・湿度、虫、菌類などにより劣化します。コンサバターの仕事の一つが「環境管理」。奈良国立博物館の展示室では、夏であれば温度24度、湿度60%に保ちます。

作品の調査もします。中の構造を画像でうつし出すX線を使い、仏像を調べることも。「木のつぎ目や、くぎを打っている場所を見ることで修理や解体で必要な工程がわかります」

災害から文化財を守ることも大切な役割です。荒木さんは、2011年の東日本大震災で被災した地域の文化財の修復を手がけています。震災から2年後、被災地の歴史民俗資料館を訪れた時のことです。たながたおれ、民具などがそのままになっていました。「このまま文化財がくちていけば、どうやって地域の文化を伝えていくのか。この仕事の意義を再確認しました」

奈良国立博物館のコンサバター(保存担当学芸員)、荒木臣紀さんのお仕事を紹介した4コマ漫画

あゆみ

小学生のころは野球やサッカーにはげむスポーツ少年でした。中学校ではバスケットボール部に所属。一方で、イギリスのロック音楽やクラシック音楽にも熱中しました。

大学生のころ、ドイツで開かれたクラシックの音楽祭を見に行きました。オーストリアやフランスにも足を運び、博物館や美術館でいたんだ絵画や工芸品を目にしました。「こうした価値あるものを直し、後世に伝える仕事がしたい」と志すきっかけになりました。 アメリカの博物館や、文化財を修理する日本の会社での修業を経て、今に至ります。

1968年
埼玉県生まれ
1984年
県立川口工業高校に進学
1989年
東京理科大学に進学。ゴムなど高分子を研究した
1998年
アメリカのジョージ・イーストマン・ハウス国際写真博物館(当時)で研修
2000年
現・株式会社文化財保存(奈良市)に入社
2008年
東京国立博物館に勤める
2021年
奈良国立博物館へ。保存修理指導室長を務める
やりがいや苦労

おたがいの文化を知れば平和に

苦労するのは、文化財をこわさないようにあつかうことです。例えば古いかけじくや巻物は、無理に開くと紙が破れることがあります。金属のものをさわる場合は手袋をつけ、塗料のうるしでできたものは手をアルコールでふいてあつかうなどします。

荒木さんは「おおげさに聞こえるかもしれませんが、文化財を守ることで世界の平和に貢献したい」といいます。「外国の博物館に行けば、『この国にはこんな文化があるんだ』と興味や親近感がわきますよね。文化を知ることが仲良くなるきっかけにもなると、私は信じています」

クローズアップ
奈良国立博物館のコンサバター(保存担当学芸員)荒木臣紀さんとデジタル顕微鏡の画像
デジタル顕微鏡を使い、19世紀の写真を調べる荒木さん。「調査を通し、文化財のことをより深く理解することができます」

2022.6.20付 朝日小学生新聞
構成・中塚慧
イラスト・たなかさゆり

毎週月曜連載中の「紹介します 〇〇のしごと」から記事を転載しています。
朝日小学生新聞のホームページはこちら