桂敏明さん
ベルク・バイオリン工房(東京都杉並区)丹念に正確に形にしていく
複雑な形をしているバイオリンですが、もとは四角い板や角材です。けずって、曲げて、はり合わせて、少しずつ形にしていきます。桂さんは「器用さではなく、基準にそった正確な作業が求められる。毎日の積み重ねが大事で、根気がいります」と言います。
板の表面をていねいにけずり、木目をうき上がらせます。指で弦をおさえるネックの部分は、1本の角材からほり出していきます。仕上げのニスは、はちみつや卵白など何種類もの材料を混ぜ合わせ、20~30層ぬり重ねます。
桂さんが楽器を一から作るのは年に1回ていど。ふだんは修理が大半です。弓のはりかえや、バイオリンの内部にある魂柱、弦を支える駒の立て直しなどです。いくつかの依頼を並行して進めます。
古い楽器をよみがえらせる修復の仕事もあります。割れた部分に裏から板をあてたり、一部を作り直したりします。すべてをきれいにすればいいわけではありません。例えば、表面のニスのしわは年月を重ねたあかし。手を加えるかには基準があります。
修復する楽器や販売する楽器は海外で買い付けます。選ぶときに使うのは、耳ではなく目だそうです。「本物をたくさん見ることで、価値が見ぬけるようになります」
小学生のとき、授業でバイオリンの低い音色を聞き、「目の前に花畑が広がる」ような魅力を感じました。興味があるならと、親がすぐに教室に通わせてくれましたが、練習がきらいで1年ほどでやめてしまいました。
中学、高校は、つりや柔道、アマチュア無線に熱中。音楽と直接かかわることはありませんでしたが、「音そのものを楽しむのが好き」で、バイオリンは時々ひいていました。
22歳までに仕事をと思っていたとき、新聞でバイオリン製作の求人を見つけ、「あとがない」という気持ちで飛びこみました。
- 1957年
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熊本市生まれ
- 1973年
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九州学院高校に進学
- 1976年
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東京の大学に進学するが1年で辞める。アルバイトをしながら別の大学を目指すが不合格に
- 1979年
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楽器製作会社に就職
- 1990年
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独立して工房を開く
技術や知識、楽しみながら積み重ね
修理や修復は、演奏者の注文通りにいかない場合があります。説明して納得してもらうには、技術と知識の積み重ねやお客さんへの対応力がものを言います。修理した楽器に「こんなによくなるの?」と、おどろかれることが何よりの喜びです。何千万円、何億円という楽器もあります。「責任が取れないような失敗をしたら終わり、という覚悟は持っています」
40年以上も続けてこられたのは「バイオリンが好きだから」です。「好きであれば、困難や少しばかり納得がいかないことも乗りこえていける。結局、仕事が楽しいのです」
2021.8.30付 朝日小学生新聞
構成:中田美和子
撮影:近藤理恵
イラスト:たなかさゆり
毎週月曜連載中の「紹介します 〇〇のしごと」から記事を転載しています。
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