バイオリン製作 のしごと

2022.03.17 紹介します○○のしごと

バイオリン職人の桂敏明さん
修理中のバイオリンを持つ桂敏明さん。工房の壁にはさまざまな工具があります=2021年8月5日、東京都杉並区
バイオリン職人の桂敏明さん

桂敏明さん

ベルク・バイオリン工房(東京都杉並区)

丹念に正確に形にしていく

複雑な形をしているバイオリンですが、もとは四角い板や角材です。けずって、曲げて、はり合わせて、少しずつ形にしていきます。桂さんは「器用さではなく、基準にそった正確な作業が求められる。毎日の積み重ねが大事で、根気がいります」と言います。 

板の表面をていねいにけずり、木目をうき上がらせます。指で弦をおさえるネックの部分は、1本の角材からほり出していきます。仕上げのニスは、はちみつや卵白など何種類もの材料を混ぜ合わせ、20~30層ぬり重ねます。

桂さんが楽器を一から作るのは年に1回ていど。ふだんは修理が大半です。弓のはりかえや、バイオリンの内部にある魂柱、弦を支える駒の立て直しなどです。いくつかの依頼を並行して進めます。

古い楽器をよみがえらせる修復の仕事もあります。割れた部分に裏から板をあてたり、一部を作り直したりします。すべてをきれいにすればいいわけではありません。例えば、表面のニスのしわは年月を重ねたあかし。手を加えるかには基準があります。

修復する楽器や販売する楽器は海外で買い付けます。選ぶときに使うのは、耳ではなく目だそうです。「本物をたくさん見ることで、価値が見ぬけるようになります」

バイオリン職人の桂敏明さんの仕事を説明する漫画

あゆみ

小学生のとき、授業でバイオリンの低い音色を聞き、「目の前に花畑が広がる」ような魅力を感じました。興味があるならと、親がすぐに教室に通わせてくれましたが、練習がきらいで1年ほどでやめてしまいました。

中学、高校は、つりや柔道、アマチュア無線に熱中。音楽と直接かかわることはありませんでしたが、「音そのものを楽しむのが好き」で、バイオリンは時々ひいていました。

22歳までに仕事をと思っていたとき、新聞でバイオリン製作の求人を見つけ、「あとがない」という気持ちで飛びこみました。

1957年
熊本市生まれ
1973年
九州学院高校に進学
1976年
東京の大学に進学するが1年で辞める。アルバイトをしながら別の大学を目指すが不合格に
1979年
楽器製作会社に就職
1990年
独立して工房を開く
やりがいや苦労

技術や知識、楽しみながら積み重ね

修理や修復は、演奏者の注文通りにいかない場合があります。説明して納得してもらうには、技術と知識の積み重ねやお客さんへの対応力がものを言います。修理した楽器に「こんなによくなるの?」と、おどろかれることが何よりの喜びです。何千万円、何億円という楽器もあります。「責任が取れないような失敗をしたら終わり、という覚悟は持っています」

40年以上も続けてこられたのは「バイオリンが好きだから」です。「好きであれば、困難や少しばかり納得がいかないことも乗りこえていける。結局、仕事が楽しいのです」

クローズアップ
バイオリン職人の桂敏明さんが製作や修理で使う道具「のみ」
製作や修理で使う「のみ」。右が最近のもので、左は使いこんだものです。「のみをとぐことはすべての基本」といいます

2021.8.30付 朝日小学生新聞
構成:中田美和子
撮影:近藤理恵
イラスト:たなかさゆり

毎週月曜連載中の「紹介します 〇〇のしごと」から記事を転載しています。
朝日小学生新聞のホームページはこちら