ハンマーで鉄をたたいているあのひと、何してる?

2026.01.27 あのひと何してる?

鍛鉄家が鉄をたたいている画像

鍛鉄家(たんてつか)

公園のフェンスやお店の看板の縁飾り、家の門扉(もんぴ)などで、くるりと曲がった鉄の装飾を見たことはあるかな? 鉄と言えば「硬くて冷たい」イメージがあるけれど、鍛鉄家の手にかかれば、柔らかいカーブを描く美しい形に生まれ変わることができるんだ。写真は、職人が真っ赤に熱した鉄をハンマーでたたき、形を作っているところだよ。(写真提供/加成幸男 撮影/JUN ISHIKURA 撮影地はいずれも埼玉県飯能市)

鉄に命を吹き込み、国境や時間を超えて残る作品を手がける


「鍛鉄」とは、鉄を高温で熱して柔らかくし、ハンマーでたたいて形を作る伝統的な金属加工技法です。鍛鉄家はヨーロッパでは「ブラックスミス(鍛冶屋=かじや。ブラック…鉄、スミス…職人)」と呼ばれ、人々の暮らしに欠かせない職業として尊敬されています。


依頼主の要望を聞いて図面を描き、デザインを提案するところから鍛鉄家の仕事は始まります。新築の家に合わせたオーダーメイドのデザインや古くなった鉄製品の修復など、さまざまな依頼があります。

鍛鉄家の作品

お客さんの依頼で制作した室内用のフェンス。鋼材の花びらを何枚も重ねたバラの花やなめらかなカーブを描く「つる」などの飾りがほどこされている

デザインが決まると、制作に進みます。まずは金属専用の炉(ろ=熱を加えて反応させるための装置)に、燃料(コークス)を入れて風を送り、温度を一気に上げます。炉内が1000度以上になったら、材料となる鉄の棒を入れます。高温で真っ赤になるまで熱した鉄は柔らかくなり、アメ細工のように自由に形を変えることができます。

 
ここからが、本格的な鍛鉄仕事の始まりです。金属を溶かしてくっつける「溶接(ようせつ)」に頼らず、ハンマー1本で鉄に命を吹き込むには、高い技術が求められます。熱くなった鉄をアンビル(金床=かなとこ。加工しようとする金属をのせる台のこと)の上でハンマーを使ってたたいたり、ねじったり、伸ばしたりしながら形を作ります。何度もたたくことで、鉄は強く丈夫になります。

鍛鉄家が使う道具の画像

工房には、形や大きさの違うたくさんのハンマーが並ぶ。作るものに合わせて、職人が道具を作ることもある

鉄の温度管理も大切な仕事です。鉄は冷めると硬くなり、無理にたたくと割れてしまうことがあります。そのため、鉄の温度が下がったら炉に戻して熱し、またたたく「炉と金床の往復」を何度も繰り返しながら作品を完成させます。鉄の色の変化から、たたくタイミングと炉に戻すタイミングを見極める観察力と判断力が求められます。


高温の炉を扱うため、夏場は工房内の温度がどんどん上がり、40度以上の暑さの中で作業をすることも。そのため、体力づくりと健康管理は、技術を磨くことと同じくらい重要です。

鍛鉄家が機械で鉄を加工している画像

手作業では加工が難しい太い鉄を扱うときは「パワーハンマー」と呼ばれる大きな機械を使うこともある。「ドガン!ドガン!」という大きな音を響かせながら、鉄をたたき、形を整えていく(JUN ISHIKURA撮影)

この仕事のやりがいは、自分が作ったものが風景の一部として何十年、何百年と残り続けること。そして、技術で世界中の人とつながれることです。加成さんは、イタリアやチェコなどで開催される鍛冶屋の世界大会に日本代表として何度も出場し、金メダルや銀メダルを獲得しています。言葉が通じなくても、ハンマーを持って一緒にものづくりをすれば、すぐに世界中の職人と心が通じ合えるそうです。


加成さんがイタリアで聞いて大切にしている言葉があります。「人生は冒険だ。解決すべき問題ではない」。この言葉を胸に、新しい形に挑戦し続けています。

どうしたら鍛鉄家になれるの?


美術大学や専門学校で金属工芸を学ぶ道もありますが、一番の近道はプロの職人の元へ弟子入りすることです。教科書で学ぶよりも、親方(師匠)の技術を間近で見て、実際にやってみて、失敗しながら体で覚えることが大切。また、重いハンマーを振り続けるための体力も必要なので、「胃袋を大きくして、ごはんをたくさん食べることも修行の一つ」と言います。

協力/鍛鉄家・加成幸男さん

取材・文/かたおか由衣