高い木の上で枝を切っているあのひと、何してる?

2025.06.23 あのひと何してる?

アーボリストが木に登っている画像

*樹護士(じゅごし)アーボリスト®

アーボリスト®は、ラテン語の「arbor(アルボル)=樹木」が元になっている言葉で、世界基準の技術を持つ「木の専門家」のこと。海外では歴史のある職業で、近年は日本でも樹護士アーボリストとして注目されているよ。15m以上もの高い木に登り、幅広い知識と技術を生かして樹木の手入れや病気の治療などを行うんだって。写真は、樹護士アーボリストが森林で枝を切っている様子だよ。(写真提供/株式会社ツリークライミングワールド、撮影地はいずれも愛知県新城市)

*ツリークライミング®、アーボリスト®、樹護士®、樹護士アーボリスト®は株式会社ツリークライミングワールドの登録商標です。

高い樹木の手入れをして環境や森林を守る


樹護士アーボリストは、木の剪定(せんてい=木の形を整える)や伐採(ばっさい=根元から木を切る)をするのが仕事です。木の表面を傷つけないように、できるだけ重機を使わずロープを使って登り、作業をすることが特徴です。


造園業者、土木業者、不動産会社、市や県などの自治体から仕事を依頼されます。現場は、公園や民家の庭、神社・仏閣、墓地、商業・公共施設の敷地など、多岐にわたります。

アーボリストが木に登っている画像

木に登ろうとしている様子。樹上での作業は剪定や伐採のほか、樹木診断・調査、ケーブリング(木の幹と枝、枝と枝などをワイヤーやロープを使ってつなぐ作業。大枝破損防止や幹折れ落下防止のために行う)、生態系の調査、害虫駆除、ドローンの回収、木から降りられない猫の救助などさまざま

最初に行う作業は、木の状態と周辺の観察です。内部が腐っていたり空洞になっていたりすることもあるので、安全に登るために、木の腐り具合や、ひび・裂け目の状態、キノコの発生の有無を把握することが肝心です。また木の周辺に、触れるとかぶれる植物が生えていないか、蜂や蛇などの生物がいないかなどもチェックします。


これらの準備が終わったら、専用のクライミングロープを木の股部分にかけ、ロープをつたって樹上(じゅじょう)へ。到着したらロープで体勢を安定させてから、両手が使える状態でノコギリやチェーンソーなどを使って枝を切り進めます。


高所で刃物を扱うので、安全面に配慮することがもっとも重要です。作業中は、ヘルメットや保護メガネに加え、チェーンソー防護ズボン・ブーツなどを着用して全身を覆い守っています。


基本的に、作業は2人以上で行います。樹上と地上に分かれ、ロープを使って、道具を吊り上げたり、樹上で切った枝を地上へ降ろしたりするためです。仲間同士のコミュニケーションは、安全のためにも大切です。作業中は、「枝を下へ落とします!」「OK、退避(たいひ=その場所から離れる)しました!」というように、お互いに声をかけ合うことを心がけます。

アーボリストが使う道具

作業に使う道具。チェーンソー、落下を防ぐロープやハーネス、ロープを調節する金具各種など20~30種類ぐらい揃えている

お客さんからは、「建物や電線に枝が引っかかる」「道路際の斜面に木が生えている」などの困りごとで剪定や伐採を依頼されます。特に近年は「異常気象の影響で、いつ倒れるか分からない」という理由から木の伐採を請け負うことが増えました。


とはいえ「伐採してほしい」と言われた木でも、適切に管理すれば生かせると判断したときは、混み合った枝や枯れ枝を切るなどして伐採を避ける提案をすることも。樹木に関する知識が増え、技術が磨かれれば提案できることも増えます。木と人が共存できるよう管理して、環境や森林を守れることが喜びです。

どうしたら樹護士アーボリストになれるの?


今のところ、国で定められた資格はありません。ただし、アメリカに本部を置く国際組織「ISA(International Society of Arboriculture)」が認める、日本で唯一のアーボリスト養成講座を受講し、試験に合格すると「樹護士アーボリスト」として認定され、仕事につながりやすくなります。大学や専門学校で樹木に関する知識を身につけ、造園業や林業などに従事して必要な技術や知識を身につけておくのも良いでしょう。

協力/株式会社ツリークライミングワールド

取材・文/内藤綾子