うちの親は仕事で疲れ切ってる。友達の親は仕事が楽しいって。どうして違うの?

2023.08.31 おしごと映画

しごとについての質問

「うちの親は仕事で疲れ切ってるけど、友達の親は仕事が楽しいんだって。どうしてそんなに違うの?」(男子・16歳)

中山治美(なかやまはるみ)さん 

スポーツ新聞記者を経て、フリーの映画ジャーナリストに。映画サイト「シネマトゥデイ」ほか、多数の雑誌で連載。世界の撮影スタジオ、映画祭を取材中。

仕事は楽しいか、楽しくないかで判断できるほど単純ではありません


『痛くない死に方』

監督・脚本:高橋伴明

原作・医療監修:長尾和宏

出演:柄本佑、坂井真紀、奥田瑛二

発売・販売元:株式会社ライツキューブ

価格:DVD 3960円(税込)

©「痛くない死に方」製作委員会

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

脚本・監督・製作:ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート

 出演:ミシェル・ヨー/ステファニー・スー/キー・ホイ・クァン

発売・販売元:ギャガ

9月6日(水)4K ULTRA HD&Blu-ray &DVD発売

価格:GAGA★ONLINE STORE 限定販売・初回生産限定 4K ULTRA HD&Blu-ray(2枚組)スチールブック仕様 1万1990円(税込)、Blu-rayスチールブック仕様 9790円(税込)、Blu-ray 8360円(税込)、DVD 7260円(税込)

© 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved. 

親御さんはきっと、家族のために一生懸命働いているのですね。
疲労困憊(こんぱい)している様子は心配ですが、心はいかがでしょう?
なぜなら仕事は楽しいか?楽しくないか?で価値判断できるほど、単純ではありません。
 

映画『痛くない死に方』の例を見てみましょう。
本作の主人公は、病院への通院が困難で自宅での治療を希望する患者のために、訪問診療をする在宅医・河田(柄本佑)です。ご存じ、医師は国家資格を必要とし、私たちが生活を営むうえでなくてはならない職業です。ただ勤務体制は非常に不規則で、在宅医の河田の場合は24時間体制。同居する家族の生活にも影響を与えてしまいます。
 

そんな彼が担当することになったのが、末期がんで延命治療を拒んでいる患者です。自宅で看病する家族も、痛みを緩和しながら自宅でおだやかに過ごす終末期医療を望んでいました。しかし国が在宅医療を推進し始めたのは近年のことで、医療体制も患者の知識の方もまだまだ勉強が不足しています。結果的に河田は、経験不足から患者と家族に苦しみを与えてしまいます。


理想と現実の間で苦悩する河田が頼ったのが、在宅医のスペシャリスト長野浩平(奥田瑛二)。長野への師事を経て、人に寄り添う医療とは?を考え、実践していきます。物語が進むにつれて輝きを増していく河田の表情が、仕事の充足感を何よりも表現しています。


原作は、在宅医療のスペシャリスト・長尾和宏先生によるノンフィクションです。長尾先生は公立の病院に勤務していましたが、1995年の阪神・淡路大震災を契機に兵庫・尼崎で開業医となり、在宅医療に力を入れてきました。


長尾先生自身を描いたドキュメンタリー映画『けったいな町医者』もありますので、合わせて見ていただくと「楽しい」などの感情を超えて、身を粉にしてでも誰かの救いになりたいと従事する尊き仕事があることを理解できるでしょう。

 
一方で、「疲れる」とか「しんどい」などの要因は、実は仕事以外の私生活や人間関係などにあることも考えられます。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を見てみましょう。


主人公エヴリンは、夫のウェイモンドと共に中国からアメリカにやってきてコインランドリー店を経営しています。しかし国税局から監査が入り、期日までに税金の申告をやり直さなければなければならず、てんやわんや。にもかかわらず父親の介護に、娘ジョイの恋愛問題、優柔不断で頼りにならない夫が彼女をさらにいらだたせます。明らかに人生に疲れ切っているようです。


そんな中、別世界からやってきたウェイモンドと名乗る男が夫の体を乗っ取り、エヴリンに「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪がおり、それを倒せるのは君だけだ」と告げます。どうやらエヴリンは、別世界ではカンフーの達人で、ものすごいパワーを持っているようです。ワケも分からぬままエヴリンは次々と別世界に飛んで、悪と戦うことになります。


本作は今年のアカデミー賞を総なめにした話題作です。ぶっ飛んだ話ではありますが、実に奥が深い。別世界でエヴリンは、夫と結婚せずに別の人生を歩んでいた自分や、夫と同じように悪に乗っ取られてしまった娘の姿を見ることになります。そこで改めて自分の人生を振り返り、家族やコインランドリー店など今いる自分の世界の大切さに気づくという壮大な愛の物語なのです。


もしかしたら、仕事で疲れている家族に、あなたが力を与えられるかもしれません。エヴリンしかり、それくらい子どもの存在は大きいものです。