左官(さかん)
平安時代、宮殿に入れるのは官位のある偉い人だけだった。そこで宮殿を造るとき、壁塗り職人に「左官」という官位を与え、入って作業できるようにしたともいわれているよ。一方で、木材を扱う職人は「右官」と呼ばれていたんだって。みんなの住む家の壁の多くは、写真のように左官が携わっているはずだ。とても身近にある仕事だね。(写真提供/一般社団法人 日本左官業組合連合会)
伝統を受け継ぎ、「塗り」の技術で人々の暮らしを支える
鏝(コテ)という道具を使い、建物の壁、天井、床などに材料を塗って仕上げる職人が左官です。浴室や洗面所、トイレなどの水回りに多く使用されるタイルや石を貼ったり、外壁のブロックやレンガを積み上げたりもします。
コテは、仕上げコテや角コテ(部屋の隅や角面を塗りやすい)など数多い。10年経験を積んだ職人なら、100種類以上を使いこなす
実は、公園の滑り台や切り株型のベンチ、学校の手洗い場、テーマパークで見かける洞窟や岩なども左官が造ったもの。ビル、マンション、住宅、店舗だけでなく、子どもたちの身近な場所まで幅広く貢献しているのです。
左官が扱う材料は、漆喰(しっくい、石灰石が主な原料)、珪藻土(けいそうど、藻の殻の化石からできている)、セメントモルタルなど、大きく分けて6種類ほどあります。ムラなく塗ることはもちろん、扇の模様をつけるなど塗り方も多彩。材料や塗り方が建物の雰囲気を左右するので、技術のほかに美的センスを磨くことも必要です。また、天気、気温、湿度、風などの気象条件により材料の固まり具合が違うため、仕事の進め方や作業スピードを毎日変える配慮もしています。
現代の建物だけでなく、お寺やお城、土蔵など、歴史的な建造物を復元・修復するときにも左官は活躍します。建造物の歴史を読み解き、当時の左官が使用していた、貝灰(かいばい、貝殻を焼いて作る)を原料にした漆喰や海藻のりといった天然素材や道具はもちろん、当時の工法も忠実に再現するのが腕の見せ所です。
古(いにしえ)の職人の技術は、現代へ次世代へと受け継がれています。左官は、その技術で現代建築の多種多様な壁と向き合い、ひと塗りに心を込めて塗り重ねます。こうして、美しい外観を造るだけでなく、風雨や騒音などをさえぎって室内の快適性を保ち、私たちの暮らしを支えているのです。
どうしたら左官になれるの?
10年のキャリアを積んで一人前といわれる。技術と経験を積めば独立も可能。女性の職人も増えている
左官業務を扱う工務店などに就職するほか、左官の親方に弟子入りするのが一般的です。国家技能検定の「左官技能士」を取得すれば、より高い技術を持つ職人として働くことができます。