しごとについての質問
「大人って、職場でいけないことをしている人や意地悪な人がいても、ガマンして働いているんですか?」(15歳・男子)
中山治美(なかやま はるみ)さん
答えはYes。でも、「かつては……」と言えるでしょう
『空飛ぶタイヤ』
監督:本木克英
出演:長瀬智也、ディーン・フジオカ、高橋一生
発売元:松竹、キノフィルムズ(木下グループ)
販売元:松竹
価格:Blu-ray 5170円(税込)、DVD 4180円(税込)
©2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会
『メイド・イン・バングラデシュ』
監督・脚本・製作:ルバイヤット・ホセイン
出演:リキタ・ナンディニ・シム
全国順次公開中
© 2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES
大人のいじめは非常に厄介です。特に仕事の現場では縦社会(上下の関係)が歴然とあるので、地位や立場を利用した圧力や嫌がらせが起こりやすくなります。俗にいうパワハラこと、パワーハラスメントです。
そんな悪しき社会構造を巧みに小説にしたのが、「半沢直樹」シリーズで知られる作家・池井戸潤さんです。代表作の一つを原作にした映画『空飛ぶタイヤ』を見てみましょう。
ある日、走行中の運送会社のトラックのタイヤが外れ、歩道を歩いていた主婦に直撃して死亡させるという事故が起こります。原因として疑われたのが運送会社の整備不良。
しかし捜査に納得いかなかった運送会社の赤松社長が、トラックの欠陥を疑い、製造・販売元の大手自動車会社に連絡を試みます。それでも相手は居留守を使ったり、ろくに対応しません。実は大手自動車会社は、車に不備があることを隠蔽(いんぺい)し、利用者側に責任をなすりつけていたのです。
製品に欠陥があった場合、製造・販売元は情報を公表したうえで製品を回収・修理などを行う“リコール”をすることを法令で義務付けられています。この場合はいじめを超えて、“リコール隠し”という立派な犯罪です。
小さな企業は大企業の横暴を前にガマンしたり、泣き寝入りするしかないのか? それが、これまでの日本社会の大人の対応だったのかもしれません。実は本作、実際に起こった事件をもとにしており、トラックの運転手は誹謗(ひぼう)中傷を受けただけでなく、運送業を廃業したそうです。
それゆえに作者の池井戸さんは、主人公たちに希望を託したのでしょう。
赤松社長は、大手自動車会社からの圧力やいやがらせにもめげずに独自に調査を行い、隠蔽工作の証拠を集めて警察を動かします。また自動車会社内でも、会社の不正を見過ごせなかった社員たちが、赤松社長に協力したり、内部告発という手段にでます。
相手の理不尽な(筋の通らない)態度やまちがった行動に対して、抗議し法に訴える。これが本来の大人の対応です。
実際に最近は、大手企業ほど法令や規則を守ること(コンプライアンス)の徹底に力を入れており、パワハラや不正を働いた者は厳しい処分の対象となります。また職場内はもちろん、仕事の不安や悩みを受け付ける心の相談窓口を設ける自治体も増えてきました。
同様に世界中で職場でのいやがらせや劣悪な労働条件に対して、立ち向かう人が増えています。
映画『メイド・イン・バングラデシュ』は、ファストファッションの縫製工場が多数あるバングラデシュで、雇用主のパワハラやセクハラに遭いながら、低賃金で働かされている女性たちが登場します。働く人が団結して、労働条件の改善を図るための団体“労働組合”を発足するまでの実話をもとにした作品です。
職場環境の改善のために、労働者が連帯して雇用主と話し合いをして解決をする。それも大人ならではの対応です。
国連で採択された、国際社会で一致団結して目指すSDGs(持続可能な開発目標)にも「みんなの生活を良くする安定した経済成長を進め、だれもが人間らしく生産的な仕事ができる社会を作ろう」という項目があります。
もうガマンして働く時代は古いのです。