[プラネタリウム解説者 ]永田美絵(ながた みえ)さん
大学卒業後、天文博物館五島プラネタリウムに就職。現在、東急コミュニティー運営の「コスモプラネタリウム渋谷」でチーフ解説員として日々宇宙を語っている。NHKラジオ第1「子ども科学電話相談」の天文・宇宙関連を担当。東京新聞の連載「星の物語」を執筆中。『星と宇宙のふしぎ109』『太陽系のふしぎ109』(偕成社)、『カリスマ解説員の楽しい星空入門』(筑摩書房)、『星座と神話大じてん』(成美堂出版)、『角川の集める図鑑GET!星と星座』(総監修・KADOKAWA)など著書多数。
プラネタリウムの解説員とは? 具体的にどんなことをする仕事でしょうか?
プラネタリウムによって違いがあって、声優の星座解説が吹き込んであるエンターテインメント映画のような番組を流す所もありますが、コスモプラネタリウム渋谷では、基本的にその日の星座を投影しながら、解説員がお客様の前でお話をします。7名の解説員それぞれが40分間の「今夜の星めぐり」の演出や音楽を決めているので、毎回内容が違うんですよ。
解説以外にも、お客様の誘導、広報活動、金銭管理など、プラネタリウムに関することを全部やっています。ハチ公をモチーフにしたキャラクター「ハチ」が活躍するオリジナル番組では、シナリオや絵コンテをかき、音楽選びをし、最終的にプログラムしてもらって仕上げるまで、制作全体に関わります。
ドームに映し出された星座の様子。コスモプラネタリウム渋谷は、投影機から星空を映し出す光学式と、プロジェクターのデジタル映像を重ねたハイブリッド・プラネタリウム。オリジナルキャラクターの「ハチ」がブラックホールに巻き込まれたり、南半球へ南十字星を見に行ったりするシリーズは子どもたちに大人気のプログラム(写真提供:コスモプラネタリウム渋谷)
「投影以外はお茶でも飲んでいるの?」と言われることもありますが、実は解説は数ある仕事の中でほんの一握りなんです。
プラネタリウムの解説以外にも、ラジオの子ども相談や、新聞のコラム執筆などもされています。幅広い仕事をするには、どのような知識が必要ですか?
NHKラジオ第1の「子ども科学相談」の回答者のみなさんと永田さん(左)。「人は落ち込んでいるときに、上を見上げるといいそう。プラネタリウムに疲れた顔で入ってきた人も、帰りは笑顔になっていることがあるんですよ」(写真提供:永田さん)
今までの人生の中で、仕事を「やるかやらないか」で迷ったときは、「やる」という選択をすると決めていて、お誘いは積極的に引き受けてきました。NHKラジオ第1の「子ども科学相談」では、「天文・宇宙」分野を担当しています。たくさんの質問が寄せられますが、台本はなく、本番まで何がくるかわかりません。「宇宙人は悪者なの? 優しいの?」「(地表から宇宙空間まで届く)宇宙エレベーターは実現可能?」など、子どものリアルな質問に答えます。
20年以上続けている東京新聞のコラム「星の物語」は、3週に1回担当で、そのときどきの天文現象や星空などについて書いています。天文に関わる本や図鑑の執筆では、細部までしっかりと最新のデータを調べなくてはいけません。
天文学って、人類最初の学問と言われるくらい懐が広く、自然科学、哲学、文学にも関わるので、さまざまな知識が必要。「仕事をする=常に勉強する」ことになり、それが自分の知識として身に着き、次の仕事のステップになっていると感じます。
天文学に興味をもったのはいつごろですか。また、どのようなきっかけでプラネタリウムの解説員になったのでしょうか?
プラネタリウムで解説をする永田さん。「小学生で天文関係の仕事をしたいと思い、中学生でプラネタリウムに興味を持ち始め、高校生のときにはプラネタリウムの解説員を目指していました。何度生まれ変わってもプラネタリウムの解説員をしたいですね」(写真提供:永田さん)
子どものころから、ベランダで空を眺めるのが大好きでした。小学生のときに皆既日食を見ることになり、弟の友達から借りた望遠鏡をのぞいたら、月が少しずつ動いているのがはっきりわかって。地球が自転していることは知っていましたが、それを目の当たりにして「わー、こういうの好きだな」って感動しました。
高校生になると、NASAの無人宇宙探査機・ボイジャー号が撮った惑星のすばらしさに衝撃を受けて。当時、透明の下敷きの間にアイドルの写真を入れるのがはやっていたのですが、私はそこに土星の写真を入れていました。土星がアイドルだったんです。
「星が大好き」「星関係の仕事がしたい」と周りにアピールしていたら、先生が天文雑誌を持って来てくれたり、校長先生が近くの天文台に電話をして「天文が大好きな生徒がいるんですが、見られますか」と問い合わせてくれたり。みんなが後押しをしてくれたおかげで理科系の大学に進学し、大学1年からプラネタリウムでアルバイトを始め、卒業と同時に渋谷の五島プラネタリウムの解説員になりました。
長年、プラネタリウムの仕事を続ける中で、ターニングポイントだと思うことはなんですか?
プラネタリウムが閉館するとき、お客さまから「プラネタリウムが大好きだった」「プラネタリウムで励まされた」などの声が届きました。このときの励ましが今の私を支えてくれています
あこがれの解説員の仕事ですが、新卒で入った五島プラネタリウムをはじめ、3回もプラネタリウムの閉館を経験。子どもの出産や離婚も重なり、プラネタリウムの解説だけでなく、コンビニの店員、塾の講師など8つのアルバイトを掛け持ちする時代がありました。先が見えないこの時期にすごく考えたんです。「何のために仕事をしているんだろう」って。
地球も月も偶然が重なってできました。月のおかげで地球の自転速度が遅くなって海ができ、生命も生まれました。私たちが今ここにいるのは、奇跡的なことなんです。日々の生活の中で、つらいことや苦しいこともありますが、天文学を知れば知るほど、大きな視点で物事を考えられるようになります。
最終的に出した答えは、「地球の美しさと、命の素晴らしさを伝えることが私のミッション」。どんな仕事をしていても、それを伝えることができると思ったら、変な焦りや気負いがなくなって。不思議なことに、いろいろなところから仕事のオファーがやってくるようになりました。
プラネタリウムの解説をする上で大切にしていることとは? どんなことを伝えたいと思っていますか?
永田さんの大切な仕事道具。(左から)ドームに映し出された星を指すポインター、星空解説のときに参考にする「星座早見盤」、その年の天文現象や星の光度などを調べるデータブック『天文年鑑』
各地のプラネタリウムで子ども向けに星のお話をするとき、最後に「私たち一人ひとりが、どれだけ奇跡的な命か」「今あなたがいるのは、たくさんの命がつながってきたから」というように、地球や命の大切さを伝えるようにしています。
例えば、オリジナルキャラクターの「ハチ」がブラックホールに入って、やっと地球に帰ってきたとき、「地球ってきれいだね。地球には人間だけじゃなくて、動物や鳥や虫などいろいろな生き物が暮らしているよ。この地球をみんなが大切にして仲良く暮らしていってね」というメッセージを入れておしまい。
ただ「地球を守ろう」というキャッチフレーズだけよりも、きちんと天文の解説をして、星を見た後に説明をする方が、地球の大切さがしっくりくるようです。
プラネタリウムで見る星と、リアルに見る夜空とは、どのような違いがありますか?
解説員が見たい天文現象と言われる「皆既日食」「オーロラ」「流星雨」を全部見ました。皆既日食は、ツアーガイドで行ったエジプトのリビア砂漠で。ダイヤモンドリング(太陽が月に隠れる直前と直後に、太陽光が1カ所だけ光り輝く現象)やコロナ(太陽が完全に隠れたときに見える、太陽を取り巻く白い輝き)まで見えました。オーロラは、20代のときにアラスカで。夜空をかける龍のようで思わず涙が流れました。流星雨は、1999年から2001年のしし座流星群。流れ星が1時間に数千から1万個も。でも、日々移り変わる毎日の星空も大好きです
プラネタリウムは小さな星空で、北斗七星などの星が見つけやすく、普段は見られない地域の星空を見ることもできます。逆にリアルな星空はとても大きく広いため、どこに星があるかが分かりづらいことも。プラネタリウムで知った星をリアルな空で見つけると、「本当に大きいんだ!」って感じるはず。両方を見比べることで、星のすごさをより実感することができます。
空や星を見ていると前向きな気持ちになれますし、天文を知ると、大きな視点で世界をイメージすることができます。特に今、子どもたちはスマホやSNSを見て下向きになりがちです。人生を良くするためにも空を見上げてほしいな。
プラネタリウムの解説員はいい仕事ですよ。数は少ないのですが(笑)。でも「やりたい!」と志を持っている子は必ず入ってきます。天文に関する仕事は、宇宙飛行士をはじめ、気象関係の職、望遠鏡メーカー、専門の出版物など、多くの需要があると思うので、星が好きな方は興味を持ち続けてくださいね。