おじいちゃんがスマホの操作を聞いてくる。これまで仕事はどうしてたの?

2022.05.30 みんなの質問

しごとについての質問

「おじいちゃんがスマホの操作をいちいち聞いてくる。これまで仕事はどうしてたの?」(17歳・男子)

中山治美(なかやま はるみ)さん 

スポーツ新聞記者を経て、フリーの映画ジャーナリストに。映画サイト「シネマトゥデイ」ほか、多数の雑誌で連載。世界の撮影スタジオ、映画祭を取材中。

伝書鳩を連絡手段にしたり、歩いて測量した紙の地図を使って仕事してましたよ


『ゴースト・ドッグ』

監督:ジム・ジャームッシュ

出演:フォレスト・ウィテカー

価格:Blu-ray 5280円(税込)

発売元:ロングライド

販売元:TCエンタテインメント

©1999 PLYWOOD PRODUCTIONS,INC.ALL RIGHTS RESERVED

『大河への道』

監督:中西健二

出演:中井貴一、松山ケンイチ、北川景子

配給:松竹

劇場公開中

©2022「大河への道」フィルムパートナーズ

そうですよねぇ〜。


スマホが当たり前にある世界に生まれてきた方たちにとって、それ以前の暮らしってなかなか想像できないかと思います。


現代において、驚異的なスピードで進化しているのが通信手段でしょう。“ガラケー”やポケベルは遺物。ファクスだってもはや存亡の危機です。“公衆電話の使い方が分からない”という世代に向けてレクチャーが行われているというニュースに、おばちゃんは隔世の感を禁じ得ません。


機械化の前に、今もある手紙や電報、さらに江戸時代には“飛脚”が活躍していたことは、映画やドラマなどで知ることができるでしょう。ユニークなところでは、伝書鳩。紀元前から行われていた鳩の帰巣本能を利用した通信方法で、1960年代ごろまでは新聞社でも活用され、各社とも鳩小屋を設けていました。特に連絡手段が少ない山中で事件が起こった際には、記者が鳥籠に鳩を入れて現場に行き、撮影したフィルムや原稿を鳩の足にくくり付けて本社まで飛ばしていたそうです。あの小さな体で、1000km以上の距離も飛べるとか。驚きの能力です。


伝書鳩が活躍する姿は、ジム・ジャームッシュ監督の映画『ゴースト・ドッグ』(1999)で鑑賞できます。本作の主人公は闇の仕事をしているゴースト・ドッグ。武士の心得を記した書物「葉隠」を愛読している彼は、武士道精神を重んじ、生活も質素そのもの。そんな彼が仕事依頼者との連絡手段として用いているのが伝書鳩。ギャング映画やサスペンス映画は多々あれど、時代の逆をいくアナログな手法が、なんとも言えない味わいとユーモアを醸し出している一品です。なにせ闇の仕事ですから、通信記録が残ってしまう電話などの現代機器より、伝書鳩の方が有効です。脚本も手がけたジャームッシュ監督のアイデアが光ります。


そしてもう1つ、スマホ誕生で多くの人が活用しているのが地図アプリであり、位置検索機能ではないでしょうか。運送業をしている方なら届け先を即座に解決し、おまけに周辺の道路事情も鑑みながら目的地までの所要時間や最適ルートまではじきだしてしまう優れもの。今日のフードデリバリーサービスの発展も、このサービスなしには語れないでしょう。


ご存じ、地図アプリ登場前に私たちが活用していたのは紙の地図です。日本において、その地図を1821年に完成させたのが、江戸時代に商人として才気を見せたのちに天文学者・地理学者として名をはせた伊能忠敬(1745ー1818)です。格好の作品があります。中井貴一主演『大河への道』は忠敬がテーマ。出身地・千葉県香取市の市役所職員たちが、観光振興策の一環として忠敬をNHK大河ドラマの主人公にしてもらおうと企画書制作に奮闘する姿を描いたエンターテインメント作品です。


忠敬は17年かけて日本全国を測量しながら歩きました。いわば、元祖Googleマップですね。作成した日本地図の完成度は、現在の衛星写真で撮った日本と合わせてもわずか0.2%しか誤差がなかったそうです。映画の原作は、香取市にある伊能忠敬記念館で地図の精巧さに驚愕(きょうがく)した落語家・立川志の輔が、忠敬の死の3年後に地図が完成したという”時差”に想像を膨らませつつ、その偉業の背景に迫った新作落語です。


地図アプリしかり、電話やメールなどなど、今、スマホの中に入っている機能は、古(いにしえ)の人たちが試行錯誤しながら得た情報や技術をデジタル化して進化・発展させたものです。あなた自身のハイハイに始まる生きる術(すべ)や知恵も、ご両親や祖父母の教えを受けて成長してきたのかと思います。その恩返しだと思って、おじいさんに優しくスマホを教えてあげてください。