測定器をのぞき込むあのひと、何してる?

2021.11.30 あのひと何してる?

地磁気観測所職員(ちじきかんそくじょしょくいん)

方位磁石が必ず北を指すのは、地球に磁気があるからなんだ。地球は、丸ごと大きな磁石なんだって。地球の磁気は「地磁気」と呼ばれ、主に地球内部にある核(コア)が地球の自転に影響されて流れることにより発生する電流によって作られているよ。気象庁に所属する地磁気観測所は、日本で100年以上観測を続けている機関。写真は、職員が地磁気の方向を測定しているところだ。(写真提供/気象庁 地磁気観測所)

地球の「今」を記録し、地球環境の監視をする


地磁気は、宇宙からやってくる高エネルギーの宇宙線や、太陽からの電気を帯びたガスの流れ=太陽風などから地球を守るバリアです。このバリアが弱くなれば、放射線や健康にリスクのある電磁波などが地上に届きやすくなり、DNAを破壊するなど生物に有害な影響を及ぼすだろうと言われています。


太陽活動や地球内部の核の動きなど環境の影響を受けて、地磁気も刻々と変化しています。そんな地磁気を正確に測定して観測データを記録し、情報を伝えるとともに残していくのが、地磁気観測所職員の仕事です。磁気嵐(太陽風などの影響によって地磁気が大きく変動する現象)が発生すると、直ちに世界中にお知らせします。観測には、地磁気の変化量のみを計測する「変化観測」と、正確に地磁気の大きさを決定するための「絶対観測」があります。変化観測は、磁力計という磁場の強さを測る機器を用いて、連続的に自動測定。絶対観測は、磁気儀と呼ばれる地磁気の方向を測定する機器を用いて、職員が手動で行います(上の写真)。

(写真上)北海道の雌阿寒岳(めあかんだけ)や(下)南極昭和基地で測定中。このほかにも女満別、鹿屋、小笠原諸島の父島などで、地磁気の観測を行う

大正13(1924)年築の実験室。茨城県石岡市にある地磁気観測所の施設で、磁力計の開発試験を行うために建てられた

観測データは、地磁気に関する調査・研究、太陽や地球の環境監視、宇宙天気予報(太陽風の変化などの宇宙から来る影響を予測する)、航空機や船舶の安全運航の確保、無線通信障害の警報、火山防災などに利用されます。たとえば、大きな太陽フレア(太陽表面での巨大な爆発)があると磁気嵐が発生し、送電線の障害や人工衛星の故障・放送の電波障害などを引き起こすことがあります。磁気嵐を予測するために、観測データは電力会社や国内外の研究機関に提供されているのです。


地磁気観測には、絶対観測や地磁気の活動度指数の算出など、人の手で行わなければならない作業が多くあります。また、データ処理のプログラミング、故障した機器の修理のほか、海外の観測所との意見交換や国際学会での発表では英語も必要。たくさんの技術を使いながら地球の「今」の姿を捉え、大きな責任感を持って世界中に発信し続けます。

どうしたら地磁気観測所職員になれるの?


国家公務員試験に合格し、気象庁職員として採用されてから、日本各地の気象官署で勤務します。地磁気観測所も気象官署のひとつです。また、気象庁の機関である気象大学校(気象庁の幹部候補生を養成するための機関)で4年間の教育を受けたのち、気象官署に勤務する方法も。気象大学校で教育を受けている期間も、気象庁の職員として給与が支給されます。

協力/気象庁 地磁気観測所

取材・文/内藤綾子