[社会活動家・認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長 東京大学先端科学技術研究センター特任教授]湯浅誠(ゆあさ まこと)さん
1969年東京都生まれ。東京大学法学部卒。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。90年代よりホームレス支援・生活困窮者支援に携わる。2009年から内閣府参与、内閣官房社会的包摂推進室長、震災ボランティア連携室長などを歴任。14~19年まで法政大学教授。18年全国のこども食堂を支援する「NPO*法人全国こども食堂支援センター・むすびえ」を設立。19年より東京大学特任教授。著書に『つながり続ける こども食堂』(中央公論新社)など。
NPO*とは
NPOは「Non-Profit Organization」の略称で、福祉、教育・文化、環境、国際協力などの社会貢献活動を行う民間の非営利団体のこと。営利事業を行うことは認められているが、その収益は社会貢献活動に充てられる。主な資金源は、会費や寄付金、助成金、事業収入など。
社会活動家って、どんなことをする人のことでしょうか?
社会活動家は「世の中を良くしよう」と思って活動している人のことです。世の中のためにいろいろな分野の仕事をする人も、ボランティア活動をする人も、みんな社会活動家なのですが、この肩書を名乗る人は少ないですね。言葉のイメージが怖いんでしょう。海外では「私はアクティビスト(社会活動家)です」と言うのは、「私はエンジニアです」というくらい普通なことなのですが、日本では爆弾でも作っているのではと受け取られちゃう(笑)。そういうイメージを払拭(ふっしょく)したくて、あえて名乗っているところがあります。
世の中を良くすることを目指すのは行政も同じですが、民間のよさは“えこひいき”ができること。税金を使う行政のサービスは平等が求められ、「広く薄く」が特徴です。民間は賛同している人のお金でできるので「狭いけど濃く」できます。NPOがいろいろな人のサポートをするとき、「なんでこの子で、あの子じゃないのか」と言われると、説明のしようがなくて。「困っているこの子と出会っちゃったから」なんです。そういう意味での“えこひいき”です。
市区町村長などを対象とした「行財政研修会東京セミナー(一般社団法人地方行財政調査会・時事通信社・地方公共団体金融機構の共催)」で、子ども食堂の取り組みについて講演する湯浅さん
「認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ」の主な活動内容はどのようなものでしょうか?
さまざまな世代が集う子ども食堂の様子。湯浅さんが理事長を務めるNPOは、活動資金として書籍を作って販売するなどの営利事業をしているが、比率が多いのは寄付。子ども食堂を担っている人のほとんどはボランティアだという(写真提供:認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ)
子ども食堂とは「子どもが一人でも安心して行ける、無料または低額の食堂」のことで、多くは子ども専用ではなく、誰でも立ち寄れる地域のつながりづくりの場です。地域の保護者や高齢者、高校生や大学生がいて、多世代交流ができる場が子どもにとって大事なんです。「むすびえ」はみんなが歩いて行ける範囲に子ども食堂ができるよう、全国に広げていく取り組みをしています。「子ども食堂は大事なんだ」と思ってもらえるように、子ども食堂をやりたいと思っている人はもちろん、子ども食堂にあまり興味のない人や行政、政治家に意義と価値を伝えるのも私の大きな仕事の一つです。
全国に約5000カ所ある子ども食堂を「つなげていく」という活動もしています。例えば市町村単位や、都道府県単位で子ども食堂を結びつけたり、集う場所をつくったり。現在、41の都道府県で子ども食堂ネットワークができていて、私たちは来年度までに47都道府県全部をカバーできるように目指しています。社会を良くすることが私のミッション。そのために何が必要かと考えて、今は子ども食堂に関わっているのです。
ホームレス支援、困窮者支援など、社会活動に進もうと思ったきっかけは?
コロナ禍の2021年4月に、東京都豊島区の子ども食堂を視察する坂本哲志孤独・孤立対策担当大臣(右)の対応をする湯浅さん(中央)(写真:朝日新聞社)
ホームレス支援に関わる直接のきっかけは、大学生のときに友達に誘われたから。でもそれに興味を持つ何かしらの芽が私の中にあったとしたら、兄が筋萎縮性の障害があったという生育環境は大きいと思います。小さい頃から家に多くのボランティアの人が来ていて、さまざまなタイプの人と出会い、そこで価値観が広がりました。
大学院に進んで政治学を学んでいましたが、ボランティアにのめりこんで単位取得退学。でも当時は社会活動だけでは一銭も稼げなかったので、活動自体を収入にしようと便利屋を立ち上げました。どこかに就職する道もあったと思いますが、私たちは炊き出しや夜回りをホームレスの人たちと一緒に、参加型でやっていました。ホームレスの人たちは自分の生活を犠牲にしてやっているのに、私が別に仕事を持って、帰る家もあるということに後ろめたさを感じて。それなら条件を一緒にすればすっきりすると思って、ホームレスの人たちと一緒に働ける便利屋を始めたんです。「俺も頑張るから、あなたたちもがんばろう」と。それで5年くらい食っていました。
湯浅さんが目指している「こうありたい社会」って、どんなものでしょうか?
「無縁社会が広がり、『誰も自分のことを気にかけてくれない』と感じる人が増えていて、それは残念なこと。『誰かが気にかけてくれる社会』を取り戻せるといいなと思います」(写真提供:認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ)
「誰も取りこぼさない社会」を目指して活動してきました。兄は障害者で周囲から冷たい視線を浴びることもあり、こういう社会は嫌だという気持ちがずっとあって。表現はそのときどきで変えていて、昔は「ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)」など難しい言葉を使っていましたが、今なら「みんながご機嫌に過ごせるような社会」ですね。貧乏でもご機嫌な人っていますよね。だから必ずしも所得だけではないんです。みんなが「ご機嫌な暮らし」をできればいいなと思っています。
「誰も取りこぼさない」というのは、国連が掲げる「SDGs(持続可能な開発目標)」にもつながっています。日本では地域の過疎化や消滅可能性都市などが問題視されています。終わりが来るという危機感が、「子ども食堂」の社会的な広がりの現象になっているのかなと感じています。
湯浅さん自身がご機嫌になるのはどんなときですか? また仕事で壁にぶつかったときの対処法は?
「私は最終的に人と社会を信頼しているんでしょう。『社会は良い方向に進みたがっている』と思っています。『答え』はその人が持っているので、人に教えるとか、救済するとか、そういう言葉は使わないし、やってあげている感じは一切ないんです」
私はいつもご機嫌です(笑)。やりたくないことはやりませんから。社会活動って8割は雑用なんです。雑用って苦手だし、できればやりたくないこと。でも大きな「やりたいこと」の中にある雑用ならば、やりたくないことじゃなくなるんです。自分が「やりたい」と考えていることに取り組めている。だからご機嫌なんです。
もちろん面倒なことも、思うようには進まないこともあります。でも私は楽観的なんですね。そういう時こそ「チャンスだ」「チャレンジだ」と思うんです。個人の相談支援では、一般に言われる「面倒くさい人」がいっぱいいるんですよ。「面倒くさい人は嫌だ」と言う人もいるでしょうが、私は「面倒くさいから面白い」と思うタイプ。「こう言っても響かないのか。じゃあ何て言おう」「今度はそう来たか。どう返そう」という感じで、自分の工夫やスキルが磨かれるととらえて、常に面白がっているんです。自分と違う人と出会ったときこそ、自分の常識や価値観を見直すチャンス。そういう出会いがあって初めて気づけたことがたくさんありました。
何か人の役に立ちたいと思っている子どもたちに、伝えたいメッセージはありますか?
社会活動で収入を得ようと思って始めたわけではありませんが、その後行政に携わり、大学教授の職に就いたり、講演活動や執筆をしたりして、結果的に現在は収入が伴っています。「好きで音楽をやっていたら、ミュージシャンで食べていけるようになった」という感覚に近いかもしれません
「あなたはオンリーワンの存在です」と言いたい。子どもって何の経験もないと思いがちですが、10歳なら「3億秒」生きているんです。世界の人口は約77億人ですが、今この場で、この角度から世の中を見ているのは私だけ。食べているものも、家族で一緒に食べていたとしても、それぞれちょっとずつ違うはずです。その意味で、誰もが自分だけの体験をしていて、その1秒を積み重ねて生きている。10歳の子は3億秒のオンリーワンの時間を経験しているんですね。オンリーワンは目指すものではなく、ありのままの現在の自分がすでにオンリーワンなんです。
ほとんどの人は「自分が何かやっても、どうにもならない」と感じていて、それが課題だと思っています。大学生に「世の中をどう感じている?」と聞くと、「何の問題もありません」と言うんですね。でも「そんなわけあるか」と話をしていくと、「バイト先の店長が何日も家に帰れなくて死んじゃいそう」「母が祖母のお世話で疲れきっている」などと出てきます。社会問題というのは、その先にあるんです。それが労働問題であり、医療問題です。「自分にしかないものがある」「自分だから見えるものがある」。それを感じてほしいな。