しごとについての質問
「仕事とか考える前に、やりたいことがわかりません。進路とかどう選べばいいんですか?」(13歳・男子)
中山治美(なかやま はるみ)さん
一度立ち止まって自分の心に問うてみると、答えが見つかるかもしれません
『いとみち』
監督:横浜聡子
出演:駒井蓮、豊川悦司
配給:アークエンタテインメント
全国順次公開中
©2021「いとみち」製作委員会
『僕たちは世界を変えることができない。』
監督:深作健太
出演:向井理、松坂桃李、柄本佑、窪田正孝
発売:キングレコード
価格:Blu-ray 2750円 DVD 2090円(ともに税込)
©2011「僕たちフィルムパートナーズ」
これね……。
本来学生時代は、さまざまな知識と経験を得ながら将来を考える期間だと思うのです。しかし実際は、せき立てられるかのように進路を決めて、そこに向かって受験勉強に励むのが現実。実に悩ましい。
だけど、自分が何をしたいのかがわからなくて前に進めなければ、一度立ち止まって自分の心に問うてみる時間が絶対に必要です。思い切って、別世界に飛び込んでみるのも良いかも。意外な自分と出会って、そこから答えが見つかるかもしれません。
映画『いとみち』の主人公、青森県の高校生・相馬いとの例をみてみましょう。
彼女は極度の人見知りに加えて津軽弁が激しく、笑われることを恐れて友達がなかなかできません。得意だった津軽三味線も、大股開きで演奏するクセが恥ずかしい年頃となり、遠のいてしまいました。ただ家と学校を往復する日々。
そんな自分を変えたい!と思ったいとは一大奮起し、メイドカフェのアルバイトに応募します。人見知りのいとにとって接客業は高いハードルで、メイドカフェの決めゼリフ「お帰りなさい、ご主人様」も満足に言えず失敗ばかり。それでも数多くの出会いが、いとに変化をもたらします。律義な店長も、シングルマザーのメイド仲間も、みんな失敗したり、壁にぶち当たったりしながら懸命に生きている。そんなすてきな同僚たちに感化され、メイドカフェに訪れた最大のピンチに、いとはある行動を起こします。
映画はここでクライマックスを迎えますが、越谷オサムさんの原作には続きがあります。アルバイトを通して自分のこと、自分を取り巻く人や社会を見つめたいとは、将来の夢を見つけて大学受験に挑むのです。ぜひ映画と原作の両方に触れて、いとの決断を見守ってください。こんな選択もあるのか!と、きっと彼女に拍手を送りたくなりますよ。
もう1作、映画『僕たちは世界を変えることができない。』の主人公・甲太の例をみてみましょう。
甲太は医大生です。もう将来は安泰じゃないか!と思うでしょう。でも甲太はアルバイトにサークル活動にと絵に描いたような大学生活を送ることに物足りなさを感じていました。そんな時、偶然目に止まったのが、カンボジアの子どもたちのために学校建設費用を募るパンフレット。150万円あれば実現するというのです。甲太は興味本位で仲間たちに声をかけ、実行に移します。そして、どんなところに学校が建つのか見ておきたいと観光気分でカンボジアに向かいました。そこで今も残る内戦の傷跡、貧富の差など、カンボジアの厳しい現実を目にして、自分たちの甘さに気付かされます。
本作は葉田甲太さんの同名ノンフィクション書籍が原作の、実話です。葉田さんは卒業後、総合診療医となり、さらにNPO法人あおぞらを立ち上げてカンボジア、タンザニア、ラオスでの医療支援を行っています。カンボジアでの体験が、まさに葉田さんの進むべき道を決めたのですね。
とはいえ順調だったわけではなく、映画化で浮足立ったり、お金に目がくらんだこともあったそうです。その度に「自分が本当にやりたいことは何か?」と考えたとか。その辺りを著書『僕たちはヒーローになれなかった。』(あさ出版)でつづっているので、こちらも合わせて読んでみてはいかがでしょう?