美術品の梱包輸送技能取得士(びじゅつひんのこんぽうゆそうぎのうしゅとくし)
門外不出の仏像がお寺を出るときや、日本の名画が海を渡るときなどに活躍するのが美術品梱包輸送技能取得士だ。写真は、美術専門スタッフ育成のために、仏像を手際よく梱包している研修の様子だよ。数億円規模の美術品輸送にも携わり、一般の人が「絶対に触ってはいけない」ものを取り扱っている、こまやかな心配りが要求される仕事だ。(写真提供/日本通運株式会社)
緊張の糸が張り詰める、国宝級の美術品などを運ぶエキスパート
美術品梱包輸送技能取得士は、美術館・博物館や展覧会主催者などの依頼で、美術品や文化財を梱包し、輸送箱(段ボールや木箱)に収め、美術品専用車に載せて目的地まで運ぶことが仕事です。展覧会では、展示作業も行います。
取り扱うのは主に、絵画、陶器、掛け軸、仏像、埴輪(はにわ)、刀剣、甲冑(かっちゅう)、着物などです。ミイラや恐竜、動物のはく製、人体骨格といった珍しいものもあります。
梱包では、吸湿性と柔軟性に優れた白薄葉紙(しろうすようし)という中性紙で直接美術品を包んだうえ、クッション材として綿を白薄葉紙で包んだ綿布団を挟み、美術品全体を包み込んで輸送箱に収めます。輸送箱は美術品の形や大きさに合わせてフィットするようにすべて手作りし、輸送中の振動によるダメージから防ぐ工夫をしています。
触っただけでボロボロになる美術品もあるので、両手で丁寧に作業をする。手袋を着けず素手なのは、手袋の生地が美術品に引っかかって傷つけることを防ぐため
輸送では、急ブレーキをかけたときでも破損しないように、仏像なら足を進行方向へ向け、絵画なら進行方向に向けて水平に積みます。崩れ防止のため、美術品を収めた輸送箱は重ねず、あえて1段にして積みます。特に仏像なら、仏さまの上にものを積むのは失礼にあたるので、作品の特性も踏まえてトラックに積み込んでいます。目的地へ到着後、美術品の間隔や観客の目線の高さを考慮し、緻密(ちみつ)な計算で設置場所を決め、会場へ並べるときに最も神経を使います。
美術品は、形・特徴・素材がさまざま。壊れやすい部分や輸送中の振動に弱い部分をカバーする梱包を考える
一連の作業は4~6名で行うため、日ごろからお互いをニックネームで呼び合ってコミュニケーションを深め、信頼関係を築きます。チームワークを大切にしながら、文化財級の美術品を通して、観客へ驚きと喜びを運び届けてくれるのです。
どうしたら美術品梱包輸送技能取得士になれるの?
美術品の輸送を扱う会社へ就職します。2年以上の経験を積んでから、日本博物館協会主催の美術品梱包輸送技能取得士試験(3級~)を目指します。