紛争なき世界を目指して、国々をめぐり支援する

2019.08.29 わたしのしごと道

[認定NPO法人 日本紛争予防センター(JCCP)理事長]瀬谷ルミ子(せやるみこ)さん

中央大学総合政策学部卒、英ブラッドフォード大学修士課程修了取得。国連PKO、外務省、NGO職員として、ルワンダ、アフガニスタン、シエラレオネ、コードジボワールなど紛争地帯の武装解除や紛争予防に関わる。2007年日本紛争予防センター事務局長に就任、13年から同理事長に。著書に『職業は武装解除』(朝日新聞出版)。2011年ニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人25人」。12年日経ビジネス「未来を創る100人」に選出、日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー準大賞受賞。プライベートでは2子の母

瀬谷さんが理事長を務めるNPO法人日本紛争予防センター(JCCP)とは、世界のどのような国々でどのようなことをしている組織なのですか?


紛争予防のために、すべきことはとてもたくさんあるが、「まずは現地の人々が身近な争いの火種を防ぐことが大切」と瀬谷さん

紛争予防のために、すべきことはとてもたくさんあるが、「まずは現地の人々が身近な争いの火種を防ぐことが大切」と瀬谷さん

JCCPが現在活動しているのは、南スーダン、ケニア、ソマリア、トルコ(シリア・イラク難民支援)など、主にアフリカ、中東の国々です。こうした国々には紛争が起きやすい地域があり、私たちは簡単にいうと「紛争が起きそうなところ」と「紛争がもうすでに起きてしまったところ」で、争いが起きないよう予防したり、再発を防止するための活動をしています。

どういう国が危険な状況にあるかは、国際情勢を常に把握し、また世界中に散らばったNPOや国連、外務省など国際平和を仕事にしている機関や組織から情報を経て、また、現地の住民や警察、政府機関などと協力し、必要なことを聞き出しながら、JCCPでどういうことができるかを考えていきます。自分たちがプラスの成果をあげられることを確認したうえで判断するので、実際に現地に向かって活動をするまで早くて数か月、長い時は1年以上かかることもあります。

私たちは主に3つの活動を行っていて、1つは現地の安全を確保すること、2つ目は現地の人たちが自分の力で生きていくための自立支援をすること、そして3つ目は紛争の元となる民族間対立やその他の争いの火種を解決するためのしくみづくりをすることです。

ただ私たちが支援をするだけでなく、最終的にはそれぞれの国の人が自分たちの国を平和に保つことができるよう、人材を育成する手助けをしています。

世界で起きている紛争には様々な原因があります。それを日本人が仲介して解決するというのは難しいように思えますが、どんな方法で平和のしくみを作っていくのでしょうか?


2016年南スーダンにて、地元の大人たちに向けた、野菜栽培研修の様子(写真提供:JCCP)

2016年南スーダンにて、地元の大人たちに向けた、野菜栽培研修の様子(写真提供:JCCP)

同年、南スーダンにて、孤児院での共同野菜栽培研修の様子。国内の避難民や地元の児童も、ともに研修を受けている(写真提供:JCCP)

同年、南スーダンにて、孤児院での共同野菜栽培研修の様子。国内の避難民や地元の児童も、ともに研修を受けている(写真提供:JCCP)

紛争は、現地での利益や権力などをめぐる争いに民族や宗教の違いが利用されて生まれることがほとんどです。日本人は特に紛争が多い中東やアフリカで争いに直接参加したことがなく中立的に見られやすいし、どのように戦後に復興したか教えて欲しいとも言われます。だから、現地の人たちだけで解決できない問題に対し、日本が歩み寄りのきっかけづくりをしやすいところがあります。私たちは、まずは、現地の住民、NPO、行政機関や学校などと結びつきを持って、長老や若者のリーダーを紹介してもうことから始めます。

難民や避難民キャンプと呼ばれる紛争で住む場所を失った人たちが暮らす場所で活動をすることもあります。今、まさに戦闘状態が続いている南スーダンでも対立する部族がともに生活をしている避難民キャンプで活動をしています。でも長い紛争の結果、家族や家を奪われ、互いの民族の間に憎しみや偏見が根強く存在している彼らに、「平和のために和解しましょう」とだけ言ってもなかなか受け入れられません。

そこでどの民族にとっても生きるために必要なことを活動の中心に置くことにしました。

現在、南スーダンでは食糧不足が深刻な問題ですから、野菜の栽培や保存食を作る技術を伝える活動を行いました。それを民族が混ざったグループで行うしくみにするのです。はじめは共同作業なんてしたくないと思っていた人たちも、食料を手に入れて生活を立て直すためにしぶしぶ活動を続ける中で、お互い協力し、共存しあった方が、争い合うよりも結果的には生活が良くなることがだんだんと伝わっていきました。

紛争が起きそうな土地やすでに戦闘が起きている地域など、治安が不安定な場所に行くことに恐怖や不安はありませんか? 特に女性として気をつけていることはありますか?


ソマリアで、現地NGOへの治安改善の訓練を行う。頭にヒジャーブを巻いている(写真提供/JCCP)

ソマリアで、現地NGOへの治安改善の訓練を行う。頭にヒジャーブを巻いている(写真提供/JCCP)

もちろん情勢が安定していない国に足を運ぶときは、事前に情報をきちんと集めることはとても大切です。本当に危険な時は入国を延期することもあります。現地でも、決して一人で無防備には出歩かない、危険な地域に行く場合はそのための訓練を受ける、場合によっては護衛をつけるなど予防策はしっかりと取っています。

セクシャル・ハラスメントのように、女性だから危険、ということもありますので注意は必要です。私は、「郷に入れば郷に従え」という言葉があるように、現地の風習には従うようにしています。例えばイスラム教の国ではヒジャーブといって髪を隠すスカーフを巻いたり、肌を見せない服装をしたりしてあまり目立たないようにします。女性が発言することが好ましくないと考えられる国もあるので、そういった場所で行われる会議では、一緒にいる男性スタッフに事前に打ち合わせしたり筆談で言いたいことを伝え、発表してもらったこともあります。

とはいえ、慣れて安心するのも危険なので、情報収集と、安全確保にはいつも気をつけています。

瀬谷さんが紛争解決を仕事にしようと思ったのはなぜですか?


JCCPの事務局でインタビューに答える瀬谷さん。最近は日本国内で、平和構築についての講演活動やワークショップなどの啓発活動を行うことも多い

JCCPの事務局でインタビューに答える瀬谷さん。最近は日本国内で、平和構築についての講演活動やワークショップなどの啓発活動を行うことも多い

最初のきっかけは高校3年生の時に、新聞に掲載されていた1枚の写真を見たことです。当時私は、自分に自信がなくて、将来どんな仕事がしたいか、どんな大学に行きたいかも決められず迷っていました。その新聞には、アフリカのルワンダで発生した大虐殺の様子が載っていて、写真は難民キャンプで小さな男の子が泣きながらお母さんを起こそうとしているものでした。お母さんは病気で死にかけていました。

その写真に私はとても強い衝撃を受けました。お菓子を食べながら紛争地の写真を見ている私がいて、カメラのレンズ一つ向こうには、私とそう年齢も変わらない1人の女性とその子どもが、死んでいこうとしている。「その違いは何だろう? なぜなんだろう?」と。

この人たちは人生を選べなかったけれど、私は選べるじゃないかって。自分は努力して道を開く権利があるのに、何も決めず愚痴ばっかり言ってたな、と思ったんです。自分に何ができるかしっかり考えよう、と見える世界や価値観がガラリと変わった瞬間でした。

紛争解決の仕事に就くためのルートは、あまり知られていませんね。瀬谷さんはどのようにキャリアを積んできたのですか?


20歳、大学3年生の時。夏休みに単身ルワンダに行ったときに、避難民として同じ宿泊所に泊まっていたルワンダ人の子どもたちと(写真提供/瀬戸ルミ子さん)

20歳、大学3年生の時。夏休みに単身ルワンダに行ったときに、避難民として同じ宿泊所に泊まっていたルワンダ人の子どもたちと(写真提供/瀬戸ルミ子さん)

紛争解決の仕事に就くと言っても、政府機関や組織に就職すればなれるというものでもないんです。特に、私が紛争解決に関わる仕事がしたいと思った当時は、紛争解決について学べる大学は日本にもありませんでした。

そこで、少しでも近いことが学べるようにと国際関係を学ぶかたわら、英語を勉強して大学時代にルワンダに渡ったり、紛争解決学を学ぶためにイギリスに留学をしたり、国際支援をしているNGOでインターンをしたりと目標に向かって進みました。

そして、まずは紛争解決の中でも、武装解除という世界的にも専門家がほとんどいない分野で勉強や経験を重ね、人のつてを頼ってとにかく現場で経験を積みながら、実践を重ねてきました。

働いた職場は、国連、NGO、外務省と様々ですが、有名な機関や組織で働くことよりも、とにかく自分の身一つで現地に変化を起こせる人間になりたい、と思ってこれまで活動をしてきました。

将来、世界で困っている人や世界平和のために貢献したいという子どもたちは、今からどんなことを勉強すればいいと思いますか?


JCCP事務局にて。JCCPのホームページ(http://jccp.gr.jp)からでも、紛争予防の活動の様子を読むことができ、ボランティアに参加したり、学校や個人でサポーターになることができる

JCCP事務局にて。JCCPのホームページ(http://jccp.gr.jp)からでも、紛争予防の活動の様子を読むことができ、ボランティアに参加したり、学校や個人でサポーターになることができる

まずは、今、世界で何が起きているかを、知ってほしいと思います。

世界中で起きている紛争の多くは、利害関係に宗教や民族の対立が絡まって何年にもわたり続く結果で、とても複雑で難しいものです。でも、すべては知ることから始まるのだと思います。自分が気にかかるニュースなどを見たら、自分と同じくらいの年齢の子たちが、今、どんな状況に置かれているのかインターネットやメディアのニュース、講演会などを通じて知り、自分のこととしてどう感じるか考えてみてください。

そしてもし興味を持って、何ができるかを考えたいと思えたら、一歩を踏み出して関わりを持ってほしいです。JCCPでも行っていますが、家にある書き損じのハガキを送ってくれると現地の子どもにカウンセリング用の絵本が送れたりと、子どもでもできる支援はあります。

子どもでも誰かの人生を変えられる。私が自分にできることから始めて、今の仕事を続けているように、小さな一歩から始めてもらえたら、それが平和を築く道に続くと信じています。

取材・文/玉居子泰子 写真/村上宗一郎