発掘から分析まで、恐竜研究者の仕事とは?

2019.08.28 わたしのしごと道

[恐竜博物館研究員]関谷透(せきやとおる)さん

1981年 埼玉県生まれ。早稲田大学教育学部理学科地球科学専修卒業後、中国吉林大学大学院(地球科学学部)博士課程修了。中国・自貢恐竜博物館の研究職員を経て、2013年より福井県立恐竜博物館研究職員。主に中国の雲南省と四川省のジュラ紀の地層から産出した恐竜化石(特に竜脚形類)を研究している。恐竜研究のために中国へ留学したのは日本人として初めて。

「博物館の研究員」とは、どういう仕事をするのでしょうか?


福井県立恐竜博物館。福井県勝山市北谷町では1980年代から多くの恐竜の化石が発掘されていて、その発掘現場近くに建てられた。福井産の5種の化石標本と3種の復元骨格があるほか、44体もの恐竜全身骨格が立ち並ぶ。世界三大恐竜博物館の一つ

福井県立恐竜博物館。福井県勝山市北谷町では1980年代から多くの恐竜の化石が発掘されていて、その発掘現場近くに建てられた。福井産の5種の化石標本と3種の復元骨格があるほか、44体もの恐竜全身骨格が立ち並ぶ。世界三大恐竜博物館の一つ(写真提供/福井県立恐竜博物館)

勝山市北谷町で発掘された獣脚類フクイラプトルの骨格(写真提供/福井県立恐竜博物館)

勝山市北谷町で発掘された獣脚類フクイラプトルの骨格(写真提供/福井県立恐竜博物館)

僕のいる福井県立恐竜博物館は恐竜専門の博物館です。ですから文字通り、恐竜についての研究をするのが仕事です。

博物館は展示をする場所のイメージが強いと思いますが、調査研究をしている施設でもあります。

研究員は、どんな恐竜のどの部分の化石なのかを調査、分類し、どこに収蔵するかといった整備全般が仕事です。研究はもちろん、文献・資料の収集や保管をはじめ、教育普及活動のほか、収蔵庫の燻蒸、恐竜グッズの監修、全国に貸し出す恐竜骨格組み立ての立ち会いなどもしています。

発掘作業は最も重要な仕事です。

恐竜博物館から車で15分ほど行ったところは、日本最大の恐竜化石発掘現場です。20年以上前から発掘作業が行われ、ここでは、肉食恐竜のフクイラプトルや草食恐竜のフクイサウルスの骨や歯が発掘され、国の天然記念物に指定されています。

発掘現場では、どうやって恐竜の化石を見つけるのですか?見つけた化石は恐竜のものだとわかるのですか?


恐竜化石発掘現場。重機で大割したのち、岩を小さく割って確認作業をする。併設の野外恐竜博物館では、発掘している現場を間近に見学できるほか、化石発掘体験もできる(写真提供/福井県立恐竜博物館)

恐竜化石発掘現場。重機で大割したのち、岩を小さく割って確認作業をする。併設の野外恐竜博物館では、発掘している現場を間近に見学できるほか、化石発掘体験もできる(写真提供/福井県立恐竜博物館)

発掘は一人ではできませんから、アルバイトの大学生たちと一緒に作業をします。ショベルカーで掘り出した岩の塊を手作業で細かく割りながら、化石を掘り出すんです。理学部や工学部などを対象に募集をかけて、主に地質系の大学生に応募してもらっています。

発掘現場では、まず何らかの生物の骨の化石を見つけたとします。

その化石と同じ地層から、タニシが出てきたら、そこは池とか川だったのだろう、池や川の近くに暮らしていた恐竜の化石かもしれないと判断ができます。このように環境を知るのに役立つ化石を示相化石しそうかせきといいます。

また、同じ地層に三角貝やアンモナイトの化石も見つかったとすると、これらは中生代の生き物なので、この地層は中生代の地層だろうという判断ができます。こういった地層の年代の判別に役立つ化石を、示準化石しじゅんかせきといいます。

示相化石や示準化石の発掘は、恐竜研究の大きな手掛かりにもなるため、大切な作業なのです。

実は、見つかった化石というのは、元の骨の一部分しか残っておらず、恐竜のものと断定できないことも多いんです。でも、化石があまり壊れておらず、恐竜特有の形の骨であれば、恐竜のものだとわかります。

研究室では、さらに恐竜の解析、分類をしていきますね。どのような研究をしているのでしょうか?


発掘された化石はクリーニング室で周りの石を取り除かれ、体のどの部分なのか鑑定されます。全身骨格の復元用には、欠けた部分を補った上で型を取り、樹脂の複製が作られます(写真提供/福井県立恐竜博物館)

発掘された化石はクリーニング室で周りの石を取り除かれ、体のどの部分なのか鑑定されます。全身骨格の復元用には、欠けた部分を補った上で型を取り、樹脂の複製が作られます(写真提供/福井県立恐竜博物館)

発掘後は、クリーニングされた恐竜の実物化石の形を見ていきます。

歯の化石であれば、ステーキナイフのようなギザギザがついていたら肉食恐竜かもしれないし、首の骨だったら、形から首を高く上げられるのか上げられないのか、首はどこまでひねることができたのかといったことが推察できるんです。

福井県立恐竜博物館には、海外オークションで購入したカマラサウルスの実物化石が頭から尻尾まで丸ごと一体あります。他のカマラサウルスの骨と比べながら、「この化石は今までにないところに出っ張りがある」とか「骨に穴が開いている」といったことを見て、もし今までにない特徴があったら、新種の恐竜の可能性もあるわけです。

逆に、中国のマメンチサウルスは9種類いると言われていますが、実は大人と子どもの差があるだけの同種、個体差だったのではないか……など、さまざまな視点から解析をしていきます。

最近は、恐竜の化石がたくさん見つかってきたので研究のために骨を切ることもできるようになりました。オスなのか、メスなのか。何歳くらいで死んだのか。

また化石の保存状態がとても良いため色素が残っていて、それを今の生き物の色素と比べると、「この恐竜のしっぽはシマシマ模様だった」とわかることもあるんです。

関谷研究員が、実際に恐竜研究に携わったのは中国の大学院に留学してからだそうですね。


中国では雲南省、四川省などの発掘現場にたびたび足を運んだ。 「中国に行って初めて恐竜の発掘現場を目の当たりにしたときはうれしかったですね。骨を見ても最初はどの恐竜の骨なのかまるでわかりませんでしたが(笑)」(写真提供/関谷透さん)

中国では雲南省、四川省などの発掘現場にたびたび足を運んだ。
「中国に行って初めて恐竜の発掘現場を目の当たりにしたときはうれしかったですね。骨を見ても最初はどの恐竜の骨なのかまるでわかりませんでしたが(笑)」(写真提供/関谷透さん)

中国留学は、大学の研究室の指導教官に勧められました。

僕が留学した2005年頃は、日本国内に恐竜の研究をする環境はまだ整っていなくて、本格的に恐竜の研究をするには海外に行くしかなかったんです。

まず手掛けたのは恐竜の頭の骨。ほかの恐竜の骨と形や大きさの違いを見比べながら、「こんな恐竜がいるんだ」などだんだん知識を増やしていきました。そうやって日々恐竜の骨に触れているうちに、着目すべきポイントをつかめるようになっていきました。

中国語は大学の第二外国語で学んだだけ。

留学当初はぜんぜん聞き取りができませんでしたが、できるだけ中国語を話さざるを得ない状況に自分を置いて、半年くらい生活していたら、なんとなくわかるようになりました。

恐竜の研究者になったということは、子どもの頃から興味は恐竜一筋だったのですか?


中国・雲南省の禄豊恐竜山にて。貴重な恐竜の全身骨格化石が発掘されたため、そのまま周囲を建物で覆い発掘現場ごと見学できるようになっている(写真提供/関谷透さん)

中国・雲南省の禄豊恐竜山にて。貴重な恐竜の全身骨格化石が発掘されたため、そのまま周囲を建物で覆い発掘現場ごと見学できるようになっている(写真提供/関谷透さん)

博物館の「恐竜の日特別セミナー」で「恐竜の巨大化」をテーマに解説する関谷研究員(写真提供/朝日新聞)

博物館の「恐竜の日特別セミナー」で「恐竜の巨大化」をテーマに解説する関谷研究員(写真提供/朝日新聞)

一筋というほどハマっていたわけではありませんが、小学校低学年の頃、東京・上野の国立科学博物館の恐竜骨格を初めて見て、「うわ、大きい。神秘的だな」と思ったのは覚えています。そして図鑑を2、3冊買ってもらったり、恐竜展に出かけたり、テレビで恐竜の番組を見たりしていました。

研究者にも憧れていました。白衣を着て研究室でビーカーをボコボコやっている博士の姿ですね(笑)。

理科系は、自然現象を理屈で説明できてしまうことが面白くて好きでしたね。例えば「冬に日照時間が短くなるのは地軸が傾いているから」など。もし恐竜の分野に進まなかったら、太陽光や雷を電力に活用する研究者になりたいと思っていました。

大学受験でどの学部を受けようかと考えたときに、「将来、恐竜の仕事ができるといいな」と漠然と思ったんです。

上野の国立科学博物館に電話をして、「恐竜の研究をしたいのですが、どの大学に行けばいいですか?」と聞き、教えてもらいました。福井県立恐竜博物館にも、そういった質問の電話がときどきかかってきますよ(笑)。

「恐竜の研究者になりたい」という子どもがいたら、どんなアドバイスをしますか?


福井県立恐竜博物館の恐竜標本の貸し出しに立ち会うのも研究員の仕事の一つ。この日は東京のショッピングセンターのアーバンドックららぽーと豊洲に貸し出し。店舗の営業終了後から深夜にかけて、福井県から大型トラックで運ばれてきた標本の組み立て作業が行われた。標本が細部まで正しく組み立てられているか、お客さんの手が標本に届かないようになっているかをチェックする。

福井県立恐竜博物館の恐竜標本の貸し出しに立ち会うのも研究員の仕事の一つ。この日は東京のショッピングセンターのアーバンドックららぽーと豊洲に貸し出し。店舗の営業終了後から深夜にかけて、福井県から大型トラックで運ばれてきた標本の組み立て作業が行われた。標本が細部まで正しく組み立てられているか、お客さんの手が標本に届かないようになっているかをチェックする。

恐竜に限らず、いろいろなことに興味を持ってほしいですね。

すぐれた研究者って、興味の幅が広いんです。いろいろなことを知っている分、研究する際にもいろいろなアプローチを考えつくことができますからね。

研究者の道は狭き門です。今、博士号を取っても定職に就けていない人はたくさんいます。それを知ったうえでも、諦めずに頑張る覚悟はありますか?

研究者になりたいと思ったら、専門分野に関して、同世代で日本一になるくらいの気概が必要かもしれません。

取材協力/アーバンドックららぽーと豊洲、福井県立恐竜博物館
取材・文/中村陽子  写真/村上宗一郎