化粧品会社の株式会社ポーラと朝日学生新聞社は、小・中学校のジェンダー教育をサポートするため、2022年から冊子『10代のためのジェンダーの授業』を共同発行し、『おしごと年鑑』に同梱して全国の小・中学校に寄贈しています。和歌山市立和佐小学校は、4年生の人権学習の一環で、第3弾の冊子を活用した授業参観などを実施。担任の吉國郁弥教諭に、授業の流れを伺いました。(写真はすべて和佐小学校提供)
- 実践校
- 和歌山市立和佐小学校
- 学年
- 小学4年生(1クラス26人)
- 授業
- 特別活動など
- 時間
- 全7コマ(2024年10月上旬~12月上旬)のうち、2コマで冊子を使った
- 使った教材
- 冊子『10代のためのジェンダーの授業』
冊子の前にぬり絵で
11月は和歌山市の「人権啓発推進月間」。和佐小学校では、人権学習の授業を保護者が参観する「人権参観」がある。人権教育の主任でもある吉國教諭は、担任を受け持つ4年生のクラスで、冊子を使ってジェンダーをテーマにした人権参観を計画した。
4年生は10才になる学年で、思春期にさしかかる。ジェンダーという言葉を初めて聞く子も多く、丁寧な説明が必要な一方、ジェンダーは、服装や進路などにも関係しており、「子どもたちが『自分事』として考えられる人権のテーマでもある」と吉國教諭は言う。
人権参観前の2024年10月、まず、ジェンダーという言葉への理解を深めようと、ぬり絵を使ったジェンダーの授業をした。「男の子の色・女の子の色について考えよう」として、ランドセルと子ども2人のイラストに色をぬり、色を男の子の色・女の子の色に分けてその理由を話し合ったり、男の子の色・女の子の色は決まっているのかを考えたりした。最後に、「男女の色に決まりはなく、自分は自分でよいこと、自分らしさを大切にする気持ちをもとう」と伝えた。
将来の夢や職業分けを導入に
2024年11月。保護者も集まった人権参観で、まずワークシートに将来の夢を書き、発表していった。父の仕事をつぐ、ペットショップの店員、小学校の校長先生、会社員……。10個ほどの仕事が挙がった。
次に、ワークシートに記した職業を「男性」「女性」「どちらでも」のイメージで分けた。「その前にジェンダーについて学んだので、『どちらでもなれるんやろ』という雰囲気はあった」と吉國教諭は言うが、男性の職業のイメージでは校長先生、大工、サッカー選手、女性の職業のイメージでは、保健室の先生と看護師が挙がった。
無意識の思い込みを体感し冊子へ
続いて、「無意識の思い込み~アンコンシャスバイアス~」というスライドをモニターに映し、人形とロボットで遊ぶ子どもたち▽保育士と消防士▽ランドセルを背負った子どもたち▽働いている人と家事をする人――の4枚のイラストを見せる。どれも、性別を強調したイラストではなく、それぞれで「男の子ですか? 女の子ですか?」「女性ですか? 男性ですか?」などと尋ねる。最後に「今までの正解は、『見る人によって変わる』です」と話し、無意識の思い込みの説明に入った。
無意識とは「自分では気づいていない」ということ、思い込みは誰もがもっていて自然なことであること、でも、時にだれかを傷つけたり、自分の可能性を狭めたりすることがあることーー。説明の後で、こう続けた。
「きょうの授業で覚えておいてほしいのは、『自分にも無意識の思い込みがある』ということ」
そう覚えておくことで、言葉にしたり行動に移したりする前に立ち止まって考えることができ、たとえ行動に移してしまっても相手の反応などから無意識の思い込みに気づける「人権感覚」を磨くことにつながるからだ。
参観の最後には、冊子を使い、2ページ目の無意識の思い込みをチェックするマンガを読んだり、3ページ目の小学校の教員と校長の男女比を確認したり、第1弾冊子にある職業の男女比クイズを解いてみたりした。
参観した保護者の一人からは「こうした早い段階で、こういう授業をしてもらえるのはありがたい」との感想が寄せられたという。
冊子のデータで理解深める
人権参観ではジェンダーの授業は終わらず、数日後、冊子を使ってジェンダー平等について考える授業もした。
まず、表紙を見ながら、「こんなこと誰かに言われたことある? 男らしく、女らしくといわれたことない?」と問いかけた。表紙には、無意識の思い込みから発せられた性別役割などの何気ない一言が載っている。
子どもたちは「ある!」と答え、「『男のくせに泣くな』と言われた」「『女の子なんだから、座るときに足を開くな』と言われた」などと話したという。吉國教諭は「もし、そういう言葉を使っている人がいたときは自分たちが教えてあげて」と呼びかけた。
続いて、子どもたちは平均賃金や育児休業の取得率が男女で異なることを4コマ漫画のページで確認した。賃金格差があることと、男性の育休取得率がいまだに低いことにも驚いた様子だった。
「まず自分が持つ偏見の存在に気づくことが大切」
児童からはこんな感想が寄せられた。
●人権の授業を聞いて、アンコンシャスバイアスという言葉をおぼえました。無意識の思いこみで自分の中で、このしょくぎょうは男、このしょくぎょうは女、みたいに偏見できめつけていて、人権の授業をして、その偏見をなくせました。でも、社長とかのしょくぎょうは女の人より男の人が多かったので、それがなくなったら、もっといい国になると思いました。
●人権のじゅぎょうでわかったことは、小学校の先生は女性が多い、校長先生は男性が多いということです。日本ではさべつをやめようとするのがおそく、世界125位、アジア最下位です。アンコンシャスバイアスは全員にあるので、これからは気をつけます。
●人権とは人の権利のこと。アンコンシャスバイアスは、無意識の思いこみのこと、私たちは一人ひとりに人権があります。男女差別をなくし、ジェンダー平等な世界になることを願っています。
後日、保健体育や道徳などの時間を活用して、授業をさらに展開。思春期の体の変化、LGBTQ、アウティングのことなども学んだ。
企画・担当した先生から
吉國郁弥 教諭
今年度、ジェンダー平等や性に関する人権学習を計画しているときにこの冊子を見つけました。職業別男女比や男女の賃金格差などを具体的な数字を使って書かれているため子どもたちにとって分かりやすい内容でした。
子どもの人権感覚は親や先生、メディアなどから知らず知らずのうちに刷り込まれています。その中には誤ったものもあるため、誤った人権感覚を正しい知識で上書きしていくことが人権学習をするうえで大切だと考えています。今年度の取り組みが子どもたちにとって重要な人権感覚のベースになってほしいと思います。
授業で使った冊子「10代のためのジェンダーの授業」(第3弾)はこちらからダウンロードできます。第1弾と第2弾はこちらからダウンロードできます。