化粧品会社の株式会社ポーラと朝日学生新聞社は、小・中学校でのジェンダー教育をサポートするため、冊子『10代のためのジェンダーの授業』を共同発行しています。2022年に第1弾、2023年に第2弾を出し、『おしごと年鑑』にそれぞれ同梱して全国の小・中学校に寄贈してきました。島根県大田市立大田西中学校は、2023年度の人権学習の導入として2つの冊子を活用しました。
- 実践校
- 島根県大田市立大田西中学校
- 学年
- 中学2年生(2023年度)
- 授業
- 総合的な学習の時間(人権学習)
- 時間
- 1年を通して6~7コマ
- 使った教材
- 冊子『10代のためのジェンダーの授業』、タブレット端末、人権学習の資料を綴じたファイル
冊子の表紙やワークシートを導入に
2023年度の1学期。八波直樹教諭=英語科と社会科担当=は、2年生に向けて、ジェンダーを人権学習の一環で教える計画だった。夏に届いた『おしごと年鑑2023』の特別付録のジェンダー冊子が、教材にぴったりだと感じ、編集部に問い合わせて第1、2弾の追加寄贈を2年生の人数分受けた。
生徒たちは1年生のころ、八波教諭から、性別による無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)の授業を受けており、その振り返りのために、冊子の表紙やワークシートを活用。表紙に並ぶさまざまな言葉を生徒と一緒に見ながら、たとえば「女の子でサッカー選手、すごいね」といった悪気のない言葉にも、無意識の思い込みがひそんでいることを確認し、ワークシートに記入もした。
他人事から自分事にするために
同じ1学期。生徒たちは、社会教育のゼミにいる東京の大学生たちとオンライン会議システムでつながった。八波教諭が大学時代に所属したゼミの学生たちだ。2~3人ずつの小グループに分かれ、大学生の方から話題を提供してもらいながら自由に話し合い、自分がジェンダーや人権のどんなことに問題意識を持っているのか、考えをめぐらせた。
八波教諭は2023年度の人権学習の目標として、「他人事から自分事へ」を掲げていた。社会教育の分野でジェンダーについても大学で学び、中学校教諭になってから、「子どものうちにジェンダーについて学び、自分の視点を持ってほしいと考えるようになった」という。知識を持つだけではなく、子どものうちに課題を自分事にして考えることで、自分なりの視点で課題があぶりだされ、家族や周囲に伝えることもできるからだという。
関心のあるテーマを設定
1学期の大学生とのフリートークをへて、2学期には人権にまつわるテーマを以下の8つに決め、3~5人の班をつくった。
・アンコンシャスバイアス
・男女共同参画社会
・性の多様性、LGBTQ
・隠れたカリキュラム(※)
・若者のデートDV
・子どもの権利
・ヤングケアラー
・夜間学級・学校
1~2コマの時間で、下の3つの視点をもとに、スライドにまとめた。
① そのテーマをなぜ選んだのか
② 今の時点での自分の問題意識はどこにあるか
③ 今後この課題を解決していくためにはどのようなことが必要なのか
アンコンシャスバイアスをテーマにした班は、「フォトウォーキング」という手法を使い、校内に潜むジェンダー格差などを探し、タブレット端末で写真を撮った。人権学習の学びの中で夜間学級に興味を持ち、テーマに選んだ生徒もいたという。
大学生にプレゼン
2学期の2023年11月。1学期に協力してくれた大学生に向けて、オンラインでスライドをもとにプレゼンテーション(プレゼン)した。発表するだけではなく、ディスカッションもした。
「まず自分が持つ偏見の存在に気づくことが大切」
授業後、生徒たちは1年間を通してこんな振り返りをした。
●私はアンコンシャスバイアスについて調べ、無意識のうちに自分の経験則などから物事を判断していることが課題であると感じました。具体的には、「男だから力持ち」「女だから料理が得意」などです。無意識の偏見をなくしていくために、まず自分が持っているバイアス(偏見)の存在に気付くことが大切です。そして、思い込みや決めつけに起因する言動がないかを日頃から考え、周囲を巻き込みながら問い直す習慣を持つことが大切なのではないかと思います。
●大学生が「性別ってそんなに気にすることなのか」という意見がとても印象的でした。これからは個人の個性を尊重しながら生活していきたいです。
●僕は男女共同参画について習い、日本社会にもっとこのことを広めていき、意識を変えていくべきだと感じました。このような考え方が社会に広がれば、主に男性が就いている職業にも女性が躊躇することなく目指せるし、その逆もあると思います。
●日本では男性の育児休業を取る割合が全体的にとても低いです。女性ばかりが育児をするのではなく、男性も育児参加をするほうが家庭的にもよりよくなると思います。今でも「女性は家事・育児、男性は仕事」というフレーズを聞くことがあります。そのような偏見をなくすためにも1人ひとりの意識改革が必要だと感じました。
12月には、人権週間に合わせて、人権講演会もあり、「男女」のみならず、様々な格差・差別の意識について学びを深めた。
企画・担当した先生から
八波直樹 教諭
本学年は、中学1年生の頃から人権学習を積み重ねてきました。一方的な知識伝達ではなく、なるべく「専門家に触れて」「自分事として」考えられる時間を設定したいという思いから本授業にいたりました。提供いただいた冊子は中学生向けに編集してあり、使用しやすく、生徒にとって活用しやすいものでした。今後は、生徒たちが自ら日常生活に潜んでいる人権課題についてアンテナをはり、自分事として考えられるようになっていってほしいと感じています。
授業で使った冊子「10代のためのジェンダーの授業」(第1弾と第2弾)はこちらからダウンロードできます。