神奈川県川崎市立東小倉小学校は川崎市の研究推進校に選ばれ、キャリア教育を中核にした長期的なカリキュラムデザインをしています。小学6年生は学校生活の学びの集大成として、前・後期を通じて総合的な学習の時間や国語、道徳など計40コマ以上を使い、大きな課題に取り組みました。将来の夢がぼんやりとした憧れから、自分と向き合うことによってリアルなものへと変わっていきました。
- 実践校
- 神奈川県川崎市立東小倉小学校
- 学年
- 小学校6年生(2023年度)全3クラス計102人
- 授業
- 総合的な学習の時間(キャリア教育として)
- 時間
- 総合的な学習の時間年間33コマ、国語6コマ、道徳1コマ、特別活動3コマ
- 使った教材
- 『おしごと年鑑2023』、ウェブ版おしごと年鑑ほか
「大人になる」とはどういうこと?
まず始めに、大人になるとはどういうことなのか、それぞれの知識や考えを共有しあった。働くことについてのイメージは、「お金のため」「家族のため」といった収入面や「大変そう」「疲れる」といったマイナス面が多く挙がった。そこで「どうして大人は働くのか?」という疑問をもち、考えていくこととなった。
ゲストティーチャーから学ぶ
川崎市にはSDGsの達成に向けて取り組む企業や団体を登録・認証する制度がある。その「かわさきSDGsゴールドパートナー」をゲストティーチャーに招くことに。
身近な書店員、あるいは税理士など、さまざまな職業の方が教壇に立った。ここでは、働く大人がどんな思いで仕事をしているのか、どうして今の職業に就いたのかなど「働く」ことと「職業」のつながりを知ることになった。
その際「自分に向いていること」を職業にしている方と「自分が好きなこと」を職業にしている方がいることに児童は気づいた。また、道徳の時間を用いて勤労についての考えを深めた。
自分の家族、大学生や新社会人から学ぶ
ゲストティーチャーの話から「自分の家族はどうして今の職業を選んだのだろう?」という疑問につながり、家庭学習でのインタビューへと進んだ。聞き取り内容を共有すると、就いた職業に興味をもつきっかけは実にさまざま。
その後、かつての教え子たちにも協力を仰いだ。小6の児童たちを前に大学生や新社会人たちが熱心に自らの経験を語る姿を目の当たりにして、担当教諭の感慨もひとしお。若きゲストティーチャーたちの話を通じて、「自分自身を知る」ことの大切さが浮かび上がった。
「自分の良さ」を友達や家族に教わる
特別活動の時間を使い、自分の良さを見つめた後に友達と意見交流した。自分では当たり前と思っていたり、気づかなかったりした点が周りからは長所と指摘され、新たな発見ができた。
また、家族インタビューでも、日常生活のなかで感じるわが子の良さを伝えてもらい、自分・友達・大人の3つの視点から得られた「自分の良さ」をもとに自己分析へと進んだ。ウェブサイト「おしごとはくぶつかん」の「おしごと診断」や「13歳のハローワーク」公式サイトの「タイプ診断」を活用し、さらに自己を多面的にとらえた。
自己分析をもとに職業を調べる
自己分析をもとに「自分が好きなことを生かせる職業」「自分の特性を生かせる職業」の2つの視点で職業を調べた。その際に「おしごと年鑑」を活用。インターネットも利用し、さまざまな職業を研究した。仕事の内容だけでなく、その職業への就き方(資格の有無・専門知識の学び方)や、実際に働く人たちのやりがいについても深掘りしていった。お金はもちろん大事だが、「誰かを喜ばせたい」「元気にさせたい」、そんな思いを抱く子も。
発表の準備をして、プレゼン大会へ
ひとり1つの職業に絞り、GIGA端末のスライドで資料を作成、プレゼンテーションの準備・練習を行った。国語の授業「話すこと・聞くこと」の単元として6コマ分を使い、効果的な資料の示し方やプレゼンテーションの構成も考えた。
スライドは大きく①自己分析、②調べた職業について、③自由記述の3部構成。①②③の順序もあえて固定せず、伝わりやすい流れを考えた。
最後の4コマで、全員がプレゼンテーションを行った。自分が興味をもった仕事以外の職業についても知ることができ、働くことや職業への興味・関心が一層高まった。
企画・担当した先生から
森 壽彦 教諭
「おしごと年鑑」を手にした子どもたちは、「これってどうなんだろう?」と疑問を抱き、そこから調べ学習が深まっていきます。従来の職業図鑑と違う点は、具体的に踏み込んだ仕事に出会えるところ。単にデザイナーでなくインテリア・デザインだったり、接着剤に興味をもった子もいました。プレゼンの体験を経て、話すことが苦手だったのに「こういうことが自分でもできるんだ」と新しい自分に気づくことも。
子どもたちが実際に職業に就くのは、大学卒業後だとしたら今から10年後。でも、決してそこがゴールでなく、その先の働く人生こそが長い。子どもたちはそこまで見通せるようになりました。だからこそ、単に「〇〇になりたい」という漠然とした目標ではなく、「こんな大人を目指したい」という具体的な目標や、「やりがい」という観点を得られたことが大きな収穫でした。