実践! 「おしごと年鑑」授業リポート 第14回

【ポーラ×おしはく】冊子で深まるジェンダー平等への理解

千葉県松戸市立和名ケ谷中学校
  • 総合学習(探究)
2023.05.09 授業リポート

化粧品会社の株式会社ポーラは、ジェンダー平等教育をサポートしています。2022年、冊子『10代のためのジェンダーの授業』を朝日新聞社と共同制作し、『おしごと年鑑2022』に同梱して全国の小・中学校約3万校に寄贈しました。多くの学校から「全校児童・生徒分ほしい」と声が寄せられ、要望のあった学校に追加寄贈しました。追加寄贈先の一つ、千葉県松戸市立和名ケ谷(わながや)中学校は、「すべての生徒、先生と理解を深めたい」と、性の多様性についても話を広げながら、全クラスに授業を展開しました。

冊子『10代のためのジェンダーの授業』(左)、冊子を見る和名ケ谷中学校の生徒たちの画像
冊子『10代のためのジェンダーの授業』(左)、冊子を見る和名ケ谷中学校の生徒たち
実践校
千葉県松戸市立和名ケ谷中学校
学年
中学1~3年 全18クラス 全校生徒約630人(2022年度)
授業
総合的な学習の時間(「ジェンダーに関する特別授業」として)
時間
1コマ(2022年11月21日)
使った教材
冊子『10代のためのジェンダーの授業』、担当教諭作成のスライド資料
はじめに

「ジェンダー」ってそもそも何?

「ジェンダーのことを知り、自分事としてとらえてほしい」。これが授業のねらいだ。全校に向けた理由について、山口広美教頭(2022年度当時)は「ジェンダー平等と性の多様性は、生徒と教職員全員が学ぶべきことだと思うからです」とねらいを話す。

追加寄贈の冊子を受け取った2022年夏、校内にジェンダーの授業に向けた教諭のチームを立ち上げた。メンバーは、1年で人権を担当する小森龍一教諭=社会科=、2年担当の小椋佳子教諭 =家庭科=、3年担当の塩生一仁教諭=保健体育=(2022年度当時)。性別や担当科目など属性の異なる3人が意見をかわしながら、教材研究から授業展開まで取り組んだ。

授業はオンライン会議システム「Teams」を使って、小森教諭と各教室のモニターを結び、行われた。

モニターを通してジェンダーの特別授業を受ける生徒たち(左)、オンライン会議システムで各クラスとモニターを通して授業をする小森教諭の画像
モニターを通してジェンダーの特別授業を受ける生徒たち(左)、オンライン会議システムで各クラスとモニターを通して授業をする小森教諭

冊子が各クラスで配られた後、モニターを通して、ジェンダーについて事前にとっていたアンケート結果が伝えられた(全校生徒のうち520人が回答)。「ジェンダーって何?」という問いについては、「意味も含めて知っている」の割合は53.5%(278人)、「聞いたことはあるが、詳しくは知らない」が24.2%(126人)、「聞いたこともない」が116人(22.3%)で、半数近くにとって、ジェンダーはなじみのない言葉という結果だった。

冊子2ページ目で、ジェンダーはこう説明されている。

「ジェンダーとは、『男らしさ、女らしさ』や、『男は仕事、女は家庭』といった性別役割分業など、社会的・文化的につくられた性差のことです。生物学的な性差と区別されます」

こうした冊子の説明やスライド資料を通して、まずはジェンダーの意味についてとらえた。

展開1

生徒の5分の1が「無意識の思い込み」経験

続いて、事前アンケートで、「男だから/女だから」「男なのに/女なのに」と性別にひもづけた「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」にもとづく言葉を言われた経験があるかという結果が、モニター越しに伝えられた。

アンケートでは、「ある」という人は107人、「ない」という人は413人で、およそ5分の1が経験をしていた。言われたことのある具体的な言葉も紹介された。

「女子なのにこのスポーツをするんだ」

「男子なのにピンクの服?」

「一人称を『わたし』にしなさい」

男だから、女だからと役割を固定した無意識の思い込みによる声かけは、個人の可能性や進路・職業選択を狭めることにつながる。担当教諭はモニター越しに、「(無意識の思い込みは)大人にもありますから、反省しましょう!」と声をかけたという。山口教頭(2022年度当時)は「通常の授業と異なり、ジェンダーの授業は大人も子どもも関係なく、ともに学ぶべきテーマであると感じました」と話す。

展開2

ジェンダー平等と多様性の現在地

続いて、身近な経験から社会的な構造の話へ。

教室では冊子3ページ目にある職業の男女比クイズを活用。解いてから、裏のページの答えを見た生徒たちの中には、賃金の高そうな職業や、組織・社会のリーダー的な職業、重要な意思決定をする職業は男性が多い▽理系も男性が多い▽人のお世話をする職業は女性が多い――といった気づきがあったという。

モニターを通して、世界各国の男女格差の指標となるジェンダーギャップ指数(世界経済フォーラム)について紹介。ランキング1位のアイスランドの女性国会議員の割合は、日本のそれより30ポイント近く高いなどと伝えた。経済分野のデータとして、組織のリーダーとなる女性管理職が少ないことも話すと、生徒からは「えー」という反応があった。

冊子3ページ目の職業の男女比クイズを解く生徒(左)、世界の中での日本の男女格差についてのスライドの画像
冊子3ページ目の職業の男女比クイズを解く生徒(左)、世界の中での日本の男女格差についてのスライド

性の多様性についても話が及んだ。

性的少数者を指すLGBTQX+(LGBTを含む多様な性)について説明すると、生徒からは「全部一緒と思っていた!」という反応があったという。さらに、性的指向や性自認について侮辱される「SOGIハラスメント」についても触れ、「どんな人も安心して生活していけるにはどうしたらいいんだろう?」と語りかけ、一人ひとりがどうすればよいか自分の中で考えるように促した。

展開3

ジェンダー平等を実現するために

授業の終わりに、「ジェンダー平等は意識を変えることで実現できます」と呼びかけ、ジェンダー平等についてもっと知りたい人向けに、図書室にあるジェンダーに関する本も紹介した。生徒たちは授業を振り返り、感想も書いた。一部を紹介する。

・ジェンダーの壁によって、社会に対し「生きづらい」という感情を持っている人がいるのは良くないと思った。この壁を私たちの世代で壊していくためには、ジェンダーについて学び、理解していくことが大切であると思った。職業においても女性が社長や議員など、表舞台で活躍する割合が少ないので、特に日本は「ジェンダー」について考えが古い気がする。

・幼稚園の頃、男子は青色、女子はピンクの服と決まっていて、当時は何も思っていなかったけど、今思うと身近なところにジェンダー・バイアスがあった。名簿で男女分けたりするのも、あまりいいことではないのかなと思った。

・理解して尊重することの大切さを知った。ただ、こういう授業を受けるたびに思うのは、「なんでこんなに深刻そうにあつかうんだろう?」ということ。別に相手がどの性別であっても、誰を好きでも関係ないのになって思う。過干渉禁止、相手の目を気にしすぎないようにする。これだけでずいぶん生きやすくなると思った。

・日本人の意見が片方に偏ってしまうのだったら、女の子らしくありたい、男の子らしくありたい人が生きづらい世の中になってしまうと思う。多様性っていう言葉は必ずしも世の中の全員の人が生きやすくなることにはならないと思う。

先生からのコメント

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    授業を通して、準備段階から、多くの生徒が興味深く冊子を開いて見ていたのが印象に残りました。こうした取り組みからジェンダーについて考えていくきっかけを作り、日ごろからクラスの中でも話していくことが大切だと思います。性別によらずに、その子自身を見つめることが大切で、多様性への理解が広がることを願っています。ポーラさんには、今回こうした機会を与えていただき、感謝しています。(山口広美教頭=2022年度当時)

授業で使った冊子「10代のためのジェンダーの授業」はこちらからダウンロードできます。

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