「おしごと年鑑」掲載の日本品質保証機構(JQA)が、東京都にある武蔵野市立関前南小学校で、出張授業を行いました。体育館に集まった2クラスの児童たちに、JQAが行っている「校正」について触れ、「はかる」ことの大切さや、その意義を伝えました。児童たちは、生活の身近にあるけど知らなかった仕事に驚くとともに、珍しい計測器に興味津々でした。
- 実践校
- 東京都武蔵野市立関前南小学校
- 学年
- 小学5年生(2022年度)全2クラス計66人
- 授業
- 総合的な学習の時間(キャリア教育として)
- 時間
- 1コマ(2022年11月28日)
- 使った教材
- 『おしごと年鑑2022』(事後学習)
- ゲスト講師
- 一般財団法人日本品質保証機構(JQA)
どんな仕事をしているの?
児童たちにとって、それまで聞いたことがなかった「日本品質保証機構」。名称からはどんなことをしている会社・団体なのか想像がつかない。ゲスト講師として登壇した黛沙月さんは、スライドをスクリーンに投影しながら、最初に4択クイズを出した。
日本品質保証機構(JQA)はどんなことをしている?
①電気製品が発火しないか確かめる
②食品に毒が入っていないか確かめる
③はかる道具のズレを調べる
④武蔵野市の自然を守る
想像力を働かせて②と③に多く手が挙がるなか、黛さんは「正解は後ほど! これから一緒に考えてみましょう」とJQAの仕事紹介に入った。
世の中にいろいろある単位の意味を知る
まずは単位について知る。「単位」を算数で習うが、高学年になると理科の実験や家庭科での調理実習でさまざまな単位を扱う。メートルやリットルなど単位の種類を挙げていくなかで、講師の黛さんはこう問いかけた。「もしも、世の中に単位がなかったらどうなるでしょう?」
たとえば身長を測っても、「段ボール箱2個分」などと表すことになり、分かりづらい。かつて、世界各地で長さの単位が「尺」「フィート」「キュビット」などバラバラで不便だったことから「メートル」が誕生したように、単位は共通のものさしであり、基準となるもの。当然、正確さが求められる。現在の1メートルが光の速さを基準に決まっていることなど知った後、黛さんから「みんなの筆箱の中の定規について、それぞれ目盛りが同じかどうか比べてみよう」と声かけがあった。
児童らが友達の定規と当てて見比べる。「これとこれは同じだけど、こっちは1ミリ違う!」「ちょっとだけ長い!」といった声があちこちで上がった。工場などものづくりの現場でこうした「はかる道具」にズレがあることを知らずに使うと、作られる製品に不具合が生じる可能性がある。「はかる道具」の正確さを確認するのは大切なことで、このズレを調べる「校正」がJQAの仕事であると説明した。
校正の流れを見てみよう!
「はかる道具」の正確さを確かめるには、例えば重さでは、正しい重さが証明されている分銅を使う。これを「標準器」といい、JQAでは単位に合わせた標準器を使って計測器のズレを調べ、「校正証明書」を発行する。黛さんは、校正について「ズレは悪いことではなく、ズレを知ることが重要」「ズレは定期的に調べることが大切」だと念押しした。
冒頭のクイズの答えは③とわかったが、「実は、①電気製品が発火しないか確かめる、も正解です!」と明かされた。JQAでは校正のほか、身の回りの電気製品の安全性を表示する「S-JQA」マークや、製品が定められた国家規格に合っていることを示す「JIS」マークの認証なども行っている。「みなさんのノートにもJISやJQAマークがついていますよ」と教えられ、手元のノートをひっくり返した児童らは「あ、あった!」と驚いた声を上げていた。身の回りの多くのものに、JQAが関わっていることを実感したようだった。
水の重さと秤(はかり)のズレを実験してみる
仕事内容の紹介が終わると、今度は講師の長澤広尚さんが前に出た。ここからは、校正がよくわかる「秤を使った実験」の時間だ。長机の上に、秤とコップ、緑の色水が入ったペットボトルが2つずつ置かれている。それぞれコップに水を注ぎ、200グラムぴったりにしてみよう、というものだ。
実験の手伝いに選ばれた男子児童が前に出て、秤の上に置いたコップに少しずつ色水を注ぐ。手元の様子はカメラでスクリーンに投影され、秤の目盛りが少しずつ増えていくと、「おおお・・・?」「あぁー!」「おっしゃ」と声が上がり、目盛りがぴったりになると拍手が起こった。長澤さんが注いだコップを児童のものと比べると、同じ200グラムなのに水面の高さが異なる。どちらかの秤がズレているのだ。分銅を秤に載せて確かめ、ズレている秤が明らかになった。「ズレを知らないと、こんなに差が出ることもあるんです。校正をして確かめておくことが大切なんですね」と説明すると、児童らはなるほど、とうなずいていた。
さまざまな計測器に触れる
最後に、講師からこの仕事を選んだ理由が語られた。「社会の役に立つ、多くの人を支えるような仕事がしたいと思っていたところ、JQAが身近な製品の多くに関わって陰で支えていることがわかり、就職を希望しました」と黛さんが話すと、長澤さんは、「ぼくは車やロボットが好きだったことから、“ものづくり”という仕事を考えるなかで、こういう仕事なら、どちらか1つではなく、どちらにも役立つことができるのが魅力だなと思いました」と語った。
質疑応答では「校正にはお金がかかるのか」「校正をしても、またズレることがあるのか」「小数点以下どのくらい小さい単位まで校正をするのか」といった視点の異なる質問が次々と挙がり、児童たちの興味が深まる授業となったようだった。
授業後、用意された計測器に自由に触れられる時間になると、児童たちが群がった。押す力・引く力を測定するプッシュプルゲージの単位が「N(ニュートン)」と知って物珍しそうに先端部を引っ張ったり、騒音計に向かって声を上げ、「dB(デシベル)」数を競ってみたりと、大いに盛り上がった。
出張授業後の
先生からのコメント
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実際に定規を比べてズレがあることや、普段使うノートの裏に「JIS-JQA」のマークがあって、それがどんな意味を持つのかなど、大人目線でも気づきの多い授業でした。これから社会科で「工業」を学びますが、部品工場ではミリ単位にこだわって製品を作るので、今回の計測や校正のお話はとてもためになりました。また、出張授業後の振り返り授業では、こうした「社会を支える仕事」をしているBtoB企業についても学びましたが、子どもたちには世の中にいろいろな会社があることを知るきっかけになったと思います。(5年2組担任:渡邊佳祐先生)
ゲスト講師から
黛 沙月さんと長澤広尚さん(右)
一般財団法人日本品質保証機構(JQA)計量計測センター
校正の内容は小学生には難しいものも多いので、最初は上手く伝わるか心配でしたが、クイズでは挙手をしてくれる子も多く、最後の質疑応答では鋭い質問がいくつもあって驚きました。内容への理解だけでなく、計測器に楽しそうに触れる様子に、授業への手応えを感じました。(黛さん)
実験をしたとき、「すごい!」「もうちょっと!」など、見ている子どもたちからも大きな声がたくさん上がったのが嬉しかったですね。楽しめる体験を通して理解を進めてくれたことがとても良かったと思いました。(長澤さん)