DNAとは遺伝子のこと、言わば生き物の体を作る「設計図」。クジラのDNAを調べることで、どんなことがわかるのか、日本鯨類研究所に教えてもらったよ。
- クジラに関わる仕事
- 地球環境を守る仕事
- データサイエンティストの仕事
ミンククジラのDNA(遺伝子)は、回遊するグループによって違います。
日本の近海には、毎年たくさんのミンククジラがやってきます。
どのミンククジラも見た目はよく似ていますが、じつは生まれた場所によってDNA(遺伝子)が違っていて、大きく2つのグループに分けられます。日本海側にはこのうち1グループが、太平洋側には両方のグループがいることがわかっています。
同じ種類のクジラでも、生まれた場所によってDNAが違うんだな。
クジラのDNAが教えてくれること
DNAとは、生き物が生きるために必要な情報がつまった、体の設計図のことです。人間もクジラも魚も、みんなDNAを持っています。
同じミンククジラでも、DNAを調べると、どのグループに属するのかがわかります。クジラのグループを知ることは、クジラを絶滅させることなく利用するために重要なのです。
クジラの数が教えてくれること
例えば、箱の中にリンゴが10個入っている場合、赤いリンゴだけが10個なら、いくつ食べても残るのは赤いリンゴだけです。でも、黄色と赤のリンゴが混ざっていたら? それぞれの数を知らないと、バランスよく食べられません。
ミンククジラの場合も同じです。どこに、どのグループが何頭いるのかを正しく知っていれば、特定のグループのミンククジラの数を減らしすぎたり増やしすぎたりせず、ミンククジラ全体の数(資源量)を適切に保てます。
グループごとのクジラの数を正確に知ることは、末永くクジラと共存するために大切なことなのです。
遺伝子T(ティー)に比べて遺伝子A(エー)のクジラは少ないわ!
Aをとりすぎないよう注意しなきゃ!
海の生態系を守る!
私たちは、海で生きる魚やイカなどのさまざまな生き物を食べ物として利用しています。これらの生き物は、食べたり食べられたりする関係(食物連鎖)の中で海の生態系のバランスを保ちながら生存しています。
クジラはこの食物連鎖の中で高位にいる生き物です。季節や場所によって異なるエサを追い、夏には日本周辺の海に移動してきます。魚、イカ、さらにプランクトンなどに加えクジラを調べることで、海全体の生態系の仕組みや環境変化を理解できます。鯨類を専門とする私たちの研究所は、クジラの研究を通して、海の生態系を守り、食料としてクジラ資源を将来にわたって安全に利用できることを明らかにするのも仕事の1つです。
クジラのDNAは、こんな風に調べます
1サンプル採取
調査海域にいるクジラや、各地で座礁したり定置網にかかったりしたクジラなどから、皮膚サンプルを採取します。
2不要なものを取り除く
採取したサンプルは、すりつぶしたあと薬品と混ぜ合わせて、不要な成分を取り除きます。この作業を何度も繰り返し、糸状のDNAを取り出します。
3DNAを解析する
❷で取り出したDNAサンプルに、さまざまな試薬を入れ、機械を使ってDNAの情報を読み取ります。
◀︎︎試薬を入れたサンプルをPCR(ピーシーアール)装置にかけて、クジラの種類の判定がしやすいようにします
◀︎︎PCR装置にかけたサンプルを、シーケンサー機を使ってDNAの解読を行い、読み取った情報をパソコン上に表示します
4DNAを分析する
❸の解析結果を参考にしながら、比較や統計学を使ってクジラの種類やグループを特定するなどします。
クジラのDNAから、生態を明らかにしていく仕事です
一般財団法人 日本鯨類研究所
資源管理部門資源解析チーム長 田口美緒子さん
日本鯨類研究所では、クジラを減らさず利用するために、船上からクジラの数を数えたり、クジラを捕獲して年齢や食べているものを調べたり、クジラに衛星発信機を取り付けてクジラの移動を調べたりしています。
この研究所での私の仕事は、クジラから採集された皮膚片を使ってDNAを調べ、どこにどんなグループのクジラがいるかを明らかにすることです。同じ種類で、見た目もそっくりなクジラのDNAを調べて、いくつかのグループに分かれていることがわかってきたときにはワクワクします。もちろん、グループに分かれていないクジラもたくさんいます。大切なのは、思い込みを捨てて、調査や実験で得られた結果を「正しく」理解することだと思います。