インフルエンザやはしか、風疹などのウイルスによる感染症を予防・治療するためのさまざまなワクチンが開発されています。その開発には長い時間が費やされます。どのようにワクチンは開発されるのか、日本製薬工業協会に教えてもらいました。
- ワクチンを開発する仕事
- 免疫を研究する仕事
- 薬に関係する仕事
地道な研究の積み重ねから作られるよ。
免疫の働きとワクチン開発の流れ
免疫細胞の一部を紹介
体には生まれつきウイルスや細菌など、病気を引き起こす病原体が入ってきたら攻撃するシステムがある。これが免疫だ。
自然免疫と獲得免疫とは?
病原体から体を守るしくみを免疫といい、大きくふたつに分類されます。
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自然免疫
自分とそれ以外を認識して、自分以外である病原体を攻撃するしくみのこと。生まれつき人の体に備わっています。
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獲得免疫
生まれたあとに体内で作られる免疫。ある病原体に一度感染したり、ワクチンを接種したりすることで作られます。
ワクチン開発の道のり
1【探索段階(基礎研究)】
(1~5年)
人の体の中で効果的な免疫を得られる成分を作り出す。
ワクチン開発の道のり
2【前臨床段階】(1~2年)→
【臨床試験(治験)】(3~10年)
人工的に育てた細胞や動物を使って各種試験を行い、その後、実際に人に接種。
ワクチン開発の道のり
3【承認】(1年)
ワクチンの製造・販売には 国の許可が必要。
従来のワクチンと新しいワクチン
従来のワクチン
生ワクチン(弱毒化ワクチン)
病原性を弱めた病原体からできている。接種すると、その病気に自然にかかった場合とほぼ同じ免疫を獲得できる。
みずぼうそうワクチン、おたふくかぜワクチンなど
不活化ワクチン
感染力をなくした病原体を構成するタンパク質からできている。1回接種しただけでは必要な免疫を獲得・維持できず、一般には数回の接種が必要。
DPT-IPV(ディーピーティー - アイピーブイ/四種混合ワクチン)、インフルエンザワクチンなど
▲従来のワクチンは、ニワトリの卵の中や人工的に育てた細胞でウイルスを増やして作る
新しいワクチン
mRNA(メッセンジャーRNA/アールエヌエー)ワクチン
ウイルスを構成するタンパク質の遺伝情報を脂質の膜につつんで投与する。その遺伝情報をもとに体内でウイルスのタンパク質を作り、そのタンパク質に対する抗体が作られることで免疫を獲得。
新型コロナウイルスワクチン
▲ウイルスの「遺伝情報」や、遺伝子組み換え技術を使う新しいタイプのワクチン
なぜ、新型コロナウイルスのワクチンは1年で実用化したの?
ワクチン開発には10年以上の時間が必要とされていますが、新型コロナウイルスのワクチン開発の基盤技術は、すでに準備ができていました。そのため今回、パンデミック(感染症の世界的大流行)が起きた段階で、すぐに臨床試験の段階からスタートできました。今後も新たなパンデミックに備えて、100日未満の開発を目標に、日本でも研究者と製薬会社、国が協力して、安全かつスピーディーなワクチン開発に向けて準備を始めています。
いざというときに備えていたんだね!
薬の開発には、創造性と誠実さが大切
日本製薬工業協会 バイオ医薬品委員会
ワクチン実務委員会委員長(住友ファーマ株式会社) 福島晃久さん
小学生のときに読んだ漫画で「バーネット理論」を知りました。体内にはどんな病原体に対しても対応できる準備がすでにあるというもの。まさに免疫の働きのことで、そのすごさに衝撃を受け、研究者を志すきっかけにもなりました。
ワクチンの研究開発に携わるなかで、最も大切なことは創造性だと思います。まだ誰も作ったことのない新しいワクチンを実現するために、仮説をたて、実験を行います。その仮説が実証される瞬間はとてもやりがいを感じます。ワクチン作りには複雑な工程や作業があり、さまざまな人との共同作業も重要なので、誠実さも大切です。
※委員長の肩書は取材当時(2021年3月)のものです
人の体には病気を治す力があり、その手助けを薬がします。