世界のスポーツ競技のタイム計測は、より正確に計測できるよう進化しています。スポーツのタイム計測技術について、セイコーホールディングスに教えてもらいました。
- 時計づくりの仕事
- 「時」を刻む技術に関わる仕事
- 電子デバイスを展開する仕事
1960年に行われた国際大会の水泳競技で、タイムの速かった アメリカ選手が、判定で2位になる出来事がありました。
1960年にローマで開催された国際大会での出来事です。水泳・男子100m自由形の決勝戦で、アメリカ代表のラーソン選手とオーストラリア代表のデビット選手は、大接戦の末ほぼ同時にゴールしました。するとこの判定を巡り、歴史に残るこんな悲劇が起こりました。
当時のタイムの計測は、各レーンに配置された3人の計時審判が手動でストップウオッチを使用して計測。同時に、計時審判とは別に6人の着順審判が目視で着順を確認していました。
計時審判のストップウオッチによる判定は、ラーソン選手が速いという結果になりました。
でも着順審判の目視による判定では……
判定結果が真っ二つに割れてしまったのです。
そのため審判員たちは協議を行い、両選手の記録を同タイムの55秒2とした上で、デビット選手の優勝と決定しました。
この結果に対し、アメリカチームはすぐに国際水連に抗議しました。しかし抗議は聞き入れられず、ラーソン選手は悔しい思いをすることになりました。
この出来事は、日本の技術者にも大きなショックを与えました。そして、正確な計測技術の開発への挑戦が始まったのです。
▲ほとんど同時にゴールし、どちらが勝ったのかわからず記録係を見るラーソン選手(左)とデビット選手
水泳競技の計測技術はこう変わった!
1960年の国際大会の後、計時の電子化と自動化が進みます。4年後に東京で行われた国際大会では、水泳のタイム計測にタッチプレートとプリンティングタイマーが使われ、正確でフェアな判定が行われるようになりました。
タッチプレートとプリンティングタイマーで正確な記録をキャッチ!
タッチプレート
選手がゴールする際、タッチプレートに触れると機械が反応してタイムを検出する仕組みです。タッチプレートは水圧や水しぶきには反応せず、選手のタッチだけを正確に検出することができます。
プリンティングタイマー
タッチプレートが検出したデータは、瞬時に電気信号に変換され、プリンティングタイマーに送信し記録されます。
水中とプールサイドのカメラでビデオ判定も可能に!
水中とプールサイドに設置された、ハイスピードのビデオカメラがゴールの瞬間を記録します。選手のタッチが弱すぎるなど、タッチプレートがタッチに反応しなかった場合、このハイスピードカメラで記録したバックアップ画像を再生して、タイムを確定します。
▲水中に設置されたカメラ
▲プールサイドに設置されたカメラ
100m走の計測技術もこう変わった!
公平なスタートが実現!
100m走のスタートはピストルの音を合図にしています。ピストルから遠い選手は音が聞こえづらいなど不利ですが……。
スターティングブロックで、公平なスタートとフライング判定が可能に!
スタートの合図音は、スターティングブロックの中に組み込まれているスピーカーから出るようになりました。そのおかげで、どのレーンにいても、公平にスタートの合図音を聞くことができるようになりました。
また、スターティングブロック後方の圧力センサーが、スタート時に加わる足の圧力の変化を検知するので、正確なフライング判定ができるようになりました。
判定はこう変わった!
1960年ころの100m走の判定は、フィニッシュラインの横に並んだ数人の計時員が、目でゴールを確認し、手動でストップウオッチを押してタイムを計測して、着順を判定していましたが……。
光電管とカメラで、正確なタイムと着順判定が可能に!
フィニッシュラインの両端には、赤外線を出す光電管が設置されています。選手がゴールと同時に赤外線を切ると、その情報が瞬時にトラックサイドクロックに送信され、速報タイムが表示されます。またゴールと同時に、セイコー フォトフィニッシュシステムが、フィニッシュライン上の画像を1秒間に2000枚撮影。その画像によって、正式タイムの判定が行われます。
▲フィニッシュラインの光電管
▲1秒間に2000枚撮影された画像
水泳のほかにも、たくさんのスポーツ競技の計測技術が進歩して、より正確なタイムが計れるようになったんだケモ!
正確でフェアな計時が支えてくれる
セイコーホールディングス 社員アスリート 山縣亮太さん
1960年ころ、タイムは手動のストップウオッチで計られていました。順位とタイムが異なることもあったそうです。その数年後、世界で初めて本格的なクオーツによる計時で、クレームゼロのスポーツ大会を実現したのが僕の会社、セイコーです。
正確でフェアな計時が保証されているからこそ、僕たちアスリートは思いっきり力を出すことができます。僕は、タイムは追うものだと思っています。100分の1秒を縮めるために何年もかかることがあります。タイムを出すための要素を細分化し、課題にしっかり取り組むことが正しい努力だと思います。
タイムが生み出すドラマは、選手一人ひとりにあります。
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タイムは追うものだ!