2020年、横浜市に「横浜武道館」が誕生しました。市街地のど真ん中に大きなスポーツ施設を造る難しい工事で、どんな技術が使われたのでしょうか? 設計から建設までを担当したフジタに教えてもらいました。
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設計から工事まで、さまざまな知恵と技術を用いて作られているよ。
街中に巨大体育館を建設せよ
横浜武道館は、1階には本格的な武道場、2階にはバスケットボールのコート3面、バドミントンなら16面の広さのアリーナがあります。市民の利用だけでなく、さまざまなスポーツイベントを開催でき、観客席は最大3000席も備えられています。
▲学校の体育館の何倍もの大きさ。2階のアリーナの屋根の大きさは60m×70m、武道館全体の高さは約30mにもなります。
完成予想図©梓設計・フジタ設計共同企業体
中央に柱がない大屋根をつくれ!
大きな建物は、たくさんの柱が屋根や床を支えています。体育館のように柱のない空間は、どのように作られているのでしょうか?
弓のようなかたち 「張弦梁」の仕組み
横浜武道館の大屋根づくりには「張弦梁(ちょうげんばり)」という構造が採用されました。広い空間をつくるには、このほかに部材同士を三角形につなぎ合わせた「トラス構造」や「アーチ構造」「吊り構造」「シェル構造」「空気膜構造」などがあります。こうした技術は、ドームや橋を造る際にも使われます。どの構造を選ぶかは、設計者の腕の見せどころといえます。
根元が左右に広がろうとして、梁材の頂点が下がってしまう
根元が左右に広がらないよう引張材が踏ん張り、束材が梁材を押し返す
トラス構造
(平行弦トラス)
トラス構造
(山形トラス)
アーチ構造
吊り構造
シェル構造
空気膜構造
出典:「建築知識別冊—第2集—空間と構造フォルム」をもとに作成
いろんな構造があるよ
ひび割れしない広大な床を支える梁をつくれ!
体育館の建設では、頑丈な床をつくらなければなりません。しかし、横浜武道館は1階に武道場があるため、2階アリーナの床を支える梁には柱が立てられない!そこでこの梁を補強する必要があります。
鉄筋コンクリート
プレストレストコンクリート(PC)
▲コンクリートに鉄筋を入れると頑丈になりますが、それでも大きな力が加わるとひび割れてしまいます。そこでプレストレストコンクリート(PC)構造の出番です
PC構造では、コンクリートの中に鉄筋の5〜6倍も強い「PC鋼より線」と呼ばれるワイヤを何本も通します。「PC鋼より線」の両側を引っ張ることによって、コンクリートに圧力(ストレス)を加え、丈夫な梁が出来上がります。これなら、安心してどんなスポーツもできますね。
▲プレストレストコンクリートの施工をしているところ。梁の強度を高めます
▲「PC鋼より線」の断面図
写真提供:日鉄SGワイヤ(株)
周囲にクレーンを置けない狭い場所で屋根を持ち上げろ!
▲こうしたリフトアップジャッキを使い、2分で18cmずつ、丸一日かけて14mの高さを持ち上げました
建設地の周りには多くのビルがあり、外側にクレーンを置くことができません。そこで、360t(トン)もの重さがある屋根を2階アリーナの床の上で先に完成させ、16基のリフトアップジャッキで持ち上げました。リモート操作でバランスよく持ち上げるには、細心の注意が必要です。
屋根を作ってから持ち上げるんだ!
▲質実剛健な「和」を感じさせる外観が目を引きます
建物が完成すると誇らしい気持ちです
株式会社フジタ 設計統括部
拠点設計部 部長 角田大輔さん
皆さんが体育の授業やクラブで利用している体育館。普段、天井を見上げることはあまりないかもしれませんが、どのように支えられているか、一度観察してみてください。大きな屋根は、他にも工場や飛行機の格納庫など、いろいろな用途で必要になります。こうした依頼があったときは、設計の専門家だけではなく、工事のプロと一緒に屋根をかける方法を考えながらプランを作ります。
「建物の設計をする」という仕事は、用途の違いや建てる土地の状況の違いなどがあり、一つとして同じものはなく、簡単ではありません。ですが、建物が完成して多くの人に利用され、喜んでもらったときにはとても誇らしく、「また次も頑張って良い建物を設計しよう!」と思えるやりがいのある仕事です。
フジタは建設を通してものづくりの
楽しさを広める「築育」にも力を入
れています。