同じ日に出る複数の新聞を見比べると、一面に取り上げるニュースや中面に掲載する記事に、かなりの違いがあります。新聞社は、新聞記事の内容や取り上げ方をどうやって決めているのでしょうか? 朝日新聞社に聞きました。
朝日新聞社では、20人以上の編集者が毎日集まって、会議で検討します。
東日本大震災から8年になる、2019年3月11日の新聞を4社で比べてみましょう。日本経済新聞以外は、東日本大震災のその後をトップに取り上げています。でも、注目点は新聞社によって違います。
朝日新聞
トップは、今も5万人以上の人が避難生活を続けているという記事。追悼行事の写真を載せて、被災地の人口減少、高齢化、孤独死の増加が大きな問題だと伝えている
読売新聞
被災者に対する住宅再建の補助金支給が、自治体によって対応が分かれていることを取り上げる。写真は、津波で被災した宮城県気仙沼向洋高校の旧校舎の一般公開の様子
日本経済新聞
トップは日本の景気の行方に不安があるという記事。経済がテーマの新聞だから、東日本大震災の記事は、ほかの新聞に比べて小さくなっている
朝日小学生新聞
東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、多くの人が避難した福島県相馬市を取材。避難指示は出なかったものの、子どもたちがいなくなった町の様子を伝える
違っているところが、
いいケモ!
金成隆一記者の
ニュースの追いかけ方
優れた報道で国際理解に貢献した記者を表彰するボーン・上田記念国際記者賞を、朝日新聞の金成隆一記者が受賞しました。金成記者はどうやってニュースを追いかけたのでしょう?
「あのトランプさんがなぜ人気?」
という疑問からスタート
▲共和党全国大会で大統領候補に指名され演説をするトランプさん(2016年7月21日)
2016年のアメリカ大統領選挙で、トランプ候補が勝ちました。みなさんも知っている今の大統領ですね。アメリカ大統領選は1年半も選挙戦が続きます。私は2015~16年、ニューヨーク特派員として、あの大統領選の取材を担当しました。
当初、多くの人が「彼が当選することはありえない」と笑っていました。トランプさんが人種差別的な問題発言を繰り返していたからです。大勢の人々がトランプさんを批判していました。怒っている人もいました。 ところが、世論調査ではトランプさんが人気1位でした。特派員の仕事は、その国で起きていることを日本の読者に伝えること。私は「なんでトランプさんが人気トップなの?」「どこの誰が支持しているの?」と知りたくなりました。
各地で聞いた
トランプさんを支持する人の声
▲トランプ大統領が人気を集めたペンシルベニア州西部の風景(2018年3月19日)
ニューヨークで取材しましたが、ほとんどの人が「彼は大統領にふさわしくない」と支持していませんでした。トランプさんを支持している人はどこにいるのでしょう。
そこで2015年12月の冬休み、アメリカを車で旅することにしました。大都市のニューヨークを脱出して、「ラストベルト」(さびついた工業地帯の意味)と呼ばれる地域の小さな街々を訪ねました。製鉄業や製造業の工場がたくさんあって栄えたけど、今では多くの工場が閉鎖されてしまった地域です。
驚きました。レストランや居酒屋で出会った人々から、「トランプさんはよいことも言っている」「ビジネスマンの彼に政治をやってほしい」と評価する声が聞こえてきたのです。
全米各地で支持者350人以上に出会いました。電話番号を交換し、同じ人を繰り返し取材することもあります。ラストベルトにはアパートを3カ月借りました。支持者の暮らしぶりを、より近くから取材するためです。
支持は続くのか?
さらに取材を続ける
▲「トランプ集会」で取材する金成隆一記者(左)。アメリカのオハイオ州ヤングスタウンで(2017年7月25日)ランハム裕子撮影
地元で暮らし始めると、同じ人を繰り返し取材しやすくなります。何度も顔を合わせて話を聞くうちに信頼関係が生まれ、話しづらいことも聞かせてくれるようになりました。まじめに働いているのに給料が10年前より減っていること、薬物依存症の家族のこと、アルコール依存症の友人のこと。アメリカは「経済の調子がよい」といわれていますが、それとは無縁の人々が大勢いました。
こういった人々は、今後もトランプ氏の支持を続けるのか?私は2019年4月に日本に戻ってきましたが、これからも電話などで取材を続けたいと思います。
記事を書くときは、読みやすい文章を心がけているんだって!