書籍編集者 のしごと

2025.07.07 紹介します○○のしごと

日本実業出版社の書籍編集者、中尾淳さん
「世の中には想像をこえるような種類の本があります。読んで、世界観を広げてほしいです」と語る中尾淳さん=2025年1月、東京都新宿区の日本実業出版社
日本実業出版社の書籍編集者、中尾淳さん

中尾淳さん

日本実業出版社

「読んでよかった」のために

日本実業出版社は今年で創業75周年をむかえる、歴史の古い出版社です。書籍編集を担当している中尾さんは、いわば「本づくり」のスペシャリスト。企画を考えるところから書籍の形に仕上げるまで、作業の全体にかかわります。

作家や専門家(著者)に書いてほしいとお願いしたり、原稿を修正したり、使う紙や表紙のデザイン、文字の大きさ・種類、タイトルを決めたり……。やることはたくさんあります。出版社によっては数人で手分けすることもあるそうですが、日本実業出版社では、その多くを1人でにないます。「構想の段階から製品化まで、本づくりのすべてを手がけられることに、やりがいを感じています」

中尾さんが送り出した書籍の数は250冊以上。科学や語学の本、プログラミングの実用書、江戸時代の地理に関する本など、ジャンルはさまざまです。

学生時代から、きめ細かな取材を報告する「ルポルタージュ」に関心があった中尾さん。商社の経営危機を救った社長(当時)のルポを2003年に書籍化し、夢をかなえました。

 「学生時代に1冊の本に出あって、ジャーナリズムに興味を持ちました。自分がやりたいことなんて、意外とわからないものです」

あゆみ

1969年
大阪府生まれ
子どものころ
そこまで読書好きではなく、夢は刑事になることでした
中学・高校時代
中学はテニス部。大阪府立千里高校では部活動をせず勉強にはげみました。作家・椎名誠の本にハマり、言葉をあつかう世界に引かれはじめました
大学時代
1年浪人して同志社大学経済学部へ。登山の部活の先輩にすすめられた『山を考える』(本多勝一/著、実業之日本社)を読んでルポルタージュやジャーナリズムに興味を持ち、「ルポを世に残す仕事」が夢になりました
1993年
経済関係の新聞社に就職。事件の取材をほかの記者たちと競いました。やがて「長文のルポを手がけたい」と思うようになり、転職を決意しました
20代後半~現在 
日本実業出版社に入社。夢をかなえた2003年の『伊藤忠丹羽革命』の後も、『世界は言葉でできている』(12年)など多くの書籍を手がけています
やりがいや苦労

著者と議論して知恵をしぼる

どのようなテーマの本をつくるときも、「『読んで価値があった』と読者に感じてもらえるか」「内容をわかりやすく伝えられているか」の二つをいつも頭に置いて仕事をしています。著者のメッセージを世の中に伝えることが、やりがいです。

「専門的なことを『やさしく』伝えるのって、実は難しいんです。それを著者と議論しながら知恵をしぼって本にしていく。この過程がおもしろいです。読者は本を1冊買うのに、食事2回分くらいのお金をはらうわけですから、最後は『読んでよかった』って思ってもらいたいですよね」

なるためには?

特別な勉強や、たくさんの読書経験が絶対に必要ではありません。個人的に大切だと思うのは、「目の前のことを興味を持って楽しめる感性」です。それが本の企画につながります。

「入りたい出版社」がある人も、まずは小さな出版社のアルバイトからでもいいので、出版業界に早く入ることをおすすめします。やりたいことは仕事をしながら見つけてもいいんです。転職しやすい業界でもあります。

必要な道具は?

原稿や資料など、荷物は多いです。これは生原稿など大切な物を入れる、いわば「勝負バッグ」。仕事で関わった番組プロデューサーからもらいました。

日本実業出版社の書籍編集者、中尾淳さんが仕事で使う「勝負バッグ」

おしごとあるある

日常生活で見聞きすることは何でも、「これは本の企画になるかも」と思ってしまうクセがあります。私は「あらゆることは企画につながる」と思います。

あと、出版社の肩書を持っていると、本の企画さえしっかりしていれば、会いたい専門家や有名人に会えます。あなたも出版業界に入ったら、あこがれの人に会いに行けるかもしれません。

やりがいのある仕事です。ぜひ書籍編集者に関心を持ってくださいね。

2025.2.3付 朝日小学生新聞
構成・正木伸城(ライター)

毎週月曜連載中の「教えて!〇〇のしごと」から記事を転載しています。
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