名久井直子さん
フリーランス「読んでみたい」を引き出す「顔」に
本屋さんの店頭には、絵本や物語、図鑑、雑誌、コミックなど、さまざまなジャンルの出版物が並んでいます。出版科学研究所によると、2022年に出版された新刊点数は、書籍だけで6万6885冊。一日に200冊近くが新しく発売される計算です。
たくさんの本の中から「あ、この本を読んでみたいな」と、手に取ってもらうためにも重要なのが、表紙をはじめとする本のデザインです。
ブックデザイナーの仕事は、「本の顔」といわれる表紙やカバーを考えるだけではありません。どんな紙を使って、文字はどんな書体で表現するか、絵や文字をどうレイアウトするかなど、本に関わる多くのことを決めます。
実体がない「情報」を、表紙や印刷する紙、インクなどを組み合わせて、手に取ることができる「物質」にするのがデザイナーの仕事だと名久井さんは考えています。
子どものころからずっと本や雑誌を読んできた名久井さんは、本に書かれたお話の世界につらい気持ちを救われたり、図鑑で知らなかったものにふれたりしてきたと言います。
「本は、『いい時間』を与えてくれるものだと思います」
- 1976年
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岩手県生まれ
- 小学校時代
- 詩集や、まんが雑誌「りぼん」、ファッション雑誌「Olive」、「昭和文学全集」などをよく読みました
- 中学校時代
- 美術部に入部。「風の谷のナウシカ」など宮崎駿さんのアニメのセル画をまねしてかきました
- 高校時代
- おこづかいでデザインなどの雑誌を買って読んでいました。成績は良く、数学者を目指していました
- 大学時代
- 数学者になる前に美術を学ぼうと、武蔵野美術大学を受験し合格。しかし、視覚伝達デザイン学科でグラフィックデザインを学んで、この道に進むと決めました
- 社会人時代
- 外資系の広告代理店に入社。アートディレクターとして広告デザインを手がけました。友人に歌集のデザインを頼まれたことがきっかけとなり、2005年にブックデザイナーとして独立しました
買った人の家になじむものを
前の仕事で、広告のデザインをしていました。手間とお金をかけてつくっても1週間で消えてしまう新商品の広告より、形になって残る本の仕事に魅力を感じました。初めてデザインした本を見た人に「きれいだね」と言ってもらったのがうれしかったと話します。
大事にしているのは「売れるために、できるだけすてきにつくること」。知識とアイデアで、作品の魅力を引き出すデザインを考えます。理想は「本屋さんで目立って、家では目立たないこと」。買った人の家の中になじんで、手元に置いてもらえるデザインを目指します。
おすすめの本
小学生のときに出あった、昭和時代の作家・安部公房の本。新聞の広告で新刊情報をチェックして、発売日に本屋に買いに行くほど好きになりました。特に好きだったのは「S・カルマ氏の犯罪」という作品が入っている『壁』。風景が遠くまで広がるような感じが楽しくて、何度も読んでいます。写真は『壁』(安部公房/新潮文庫)。
おしごとあるある
本の表紙を見ると、「これはAさんだな、これはBさんだな」と、だれがデザインしたものか、だいたいわかります。
カバーを外して、表紙がどんなデザインになっているかもつい確認してしまいます。どんな紙やインクを使っているのかは見ればわかるので、頭のなかで「ああ、いい紙を使ってるな。インクはあれを使ってるんだ。つくるのにお金がかかってるな。それなのにこの値段かあ。すごいな」と計算しちゃうんです(笑い)。
向いている人は?
いろいろな本の依頼が来るので、いいデザインにするために、まずはよく読みます。小説など普段自分が読まないようなものもあります。好みにしばられず、いろんなものに興味が持てる人、好きになれる人が向いていると思います。
難病について書かれた本のデザインをすれば、その病気で困っている人がいることが初めてわかったり、昔の小説で戦争時代にあったことがわかったりします。仕事で学ぶことも本当に多いです。
2023.10.23付 朝日小学生新聞
構成・谷ゆき
毎週月曜連載中の「教えて!〇〇のしごと」から記事を転載しています。
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