白井宏典さん
タカラベルモント株式会社(大阪市) 大阪工場 技術部「革」を知り 愛される椅子に
理容室や美容室で座る椅子は座り心地がよく、特別さを感じる人もいるでしょう。白井さんは、理美容室や歯科クリニック用の椅子の設計にたずさわっています。設計には製造の技術が欠かせず、自らも椅子に生地を張る「椅子張り」の職人です。
生地は本革ではなく合成皮革を使います。「合成皮革は水を通さず、よごれにくくする加工などの表面処理ができる利点があります」と白井さん。タカラベルモントは約140種類の合成皮革を開発し、色やのび具合、さわり心地もさまざまです。それぞれの製品に合うものを、開発を担うデザイナーと相談して決めます。デザイナーのスケッチをもとに型紙をつくって切りとり、ミシンでぬいます。
椅子張りは、しわやゆがみのないように仕上げます。さまざまな合成皮革の特性を把握し、正確に引っ張り、椅子の決められた位置にタッカーという工具で打ちつけます。「椅子は使っていくと生地がのび、形がくずれることがあるため、先に生地を引っ張っておくのです」
理美容室の椅子の座り心地には、座面の手前が奥より5度高くなっているなど「秘密」があります。今後も「お客さんやサロンの人たちに、長く愛される椅子づくりをしていきたい」。
小学生のころから、大工のお父さん、ミシンで服を手づくりしてくれたお母さんの影響でものづくりが好きでした。
高校では機械科を専攻し、エンジンの分解や組み立てを学びました。趣味のバイクでは、速く走れるよう部品を換えるなど「改造」に熱中しました。
ものづくりが好きな気持ちから、工場の仕事に就きました。手先が器用ということもあり、技術部に配属。椅子張りの技術をみがき、2022年11月には、大阪府が優秀な技能者を表彰する「なにわの名工」を受賞しました。
- 1986年
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大阪府生まれ
- 2001年
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府立東住吉工業高校(現・東住吉総合高校)に進学
- 2007年
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タカラベルモントで働き始める。08年に技術部へ
- 2017年
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椅子張り技能検定1級を取得
- 2022年
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大阪府優秀技能者表彰(なにわの名工)を受賞
つくりこむことで品質を高める
製品は、完成までほぼ職人の手作業です。理美容室には同じ製品が複数並ぶため、「一つでも縫製がゆがんだものがあれば目立ちます」。そうならないよう、職人たちに向け、細かい指示を書きこんだ仕様書をつくります。「『芯材の底の部分まで生地を引っ張る』など、だれが読んでも同じものをつくれる仕様書にすることが大切です」
型紙をつくる作業だけでも、ぬってはがしてを10回くらいくり返し、細かい修正を加えるそうです。「つくりこむことで品質が上がり、そこに大きなやりがいがあります」と、白井さんは話します。
2022.12.19付 朝日小学生新聞
構成・中塚慧
イラスト・たなかさゆり
毎週月曜連載中の「紹介します 〇〇のしごと」から記事を転載しています。
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