西馬 薫さん
神戸YMCA学院専門学校(兵庫県神戸市)違う価値観どうし学び合う
おもに外国人に日本語を教える仕事です。日本語学校で教えるには、「日本語教育能力検定試験」に合格する、養成講座を修了する、などの要件のうち一つを満たす必要があります。
ある日の初級クラスの授業をのぞくと、ミャンマーや中国、ネパールなどさまざまな国籍の十数人が参加していました。
「財布に千円『だけ』ある。千円『しか』ない」を例に、「だけ」の後には「ある」、「しか」の後には「ない」になることを教えた西馬さん。一つの表現でも多くの例を出し、覚えられるように工夫します。混乱しやすい「が」や「を」などの助詞は、パターンに分けてくり返し練習して定着させます。
教える時に心がけるのは、生徒の日本語力に合わせた日本語で話すことです。「理解できないと、より難しく感じる。まずは『わかった』と達成感を得ることが大切です」
授業では、生徒がどういう国から来て何が好きかなど、背景にあるものを引き出します。日本の文化を伝えた後に「インドネシアではどうですか」などと聞けば、教室全体でその国への理解も深まります。「教室の環境は『多国籍』。共通言語の日本語でやりとりしながら、さまざまな価値観にふれてほしい」
小学生のころは川辺にツクシ狩りに行くなど、活発な子でした。中学校の英語で「アメリカは人種のるつぼ(meltingpot)」という表現にふれ、海外の文化に興味を持ちました。
大学を出て、教師ではないスタッフとして現在の神戸YMCAに就職。台湾で日本語を教えるために職場を去った先輩に、「かつて日本が統治していた台湾で日本語を教えるのはどうなのか」と質問したら、こう返ってきました。「言語には政治的な問題をこえる力がある」。その言葉がグサッとささり、日本語教師を志しました。
- 1962年
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兵庫県生まれ
- 1977年
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県立加古川西高校に進学
- 1980年
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甲南大学文学部英文学科(当時)へ進む
- 1984年
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神戸キリスト教青年会(今の神戸YMCA)の職員に。87年、同会の日本語教師養成講座を1年間受講する
- 1988年
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台湾のYMCAに派遣。翌年から神戸で教える
- 1991年
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日本語教育能力検定試験に合格
生徒の上達にふれた時に喜び
西馬さんが大きなやりがいを感じるのは、生徒たちの上達にふれる時です。「できなかった人が卒業するころに話せるようになっているのが、一番の喜びです」
授業中には、「政治の話は質問がない限りしないこと」を心がけます。「生徒の出身国どうしの関係が微妙な場合があるためです」
めざすのは「生徒に対して、常にフラットでいること」です。「こちらは『母国』で生徒は『外国』という状況は、ややもすれば教師の立場が強くなりがち。価値観をおしつけるのではなく、学び合う関係性を大切にしたいですね」
2022.9.26付 朝日小学生新聞
構成・中塚慧
イラスト・たなかさゆり
毎週月曜連載中の「紹介します 〇〇のしごと」から記事を転載しています。
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