校正者 のしごと

2022.07.19 紹介します○○のしごと

岩波書店の校正者、鈴木忠行さん
「本はまるで、よき先生や友だちのような存在です。すてきな出会いをしてほしい」と話す鈴木忠行さん=2021年11月4日、東京都千代田区
岩波書店の校正者、鈴木忠行さん

鈴木忠行さん

岩波書店(東京都千代田区)

出版前に内容の正しさ確認

校正とは、本や新聞、雑誌などを発行する前に、内容にあやまりがないかを読んでチェックする仕事です。鈴木さんは、出版社の岩波書店で働く校正者です。「人間が書いたものだから、間違いもあるだろうと思ってチェックしている」といいます。

本の校正の仕事は、作者の原稿を校正用に試しに印刷した「ゲラ」を受け取るところからスタートします。ゲラは、作者と編集者、校正者がそれぞれに目を通して、ミスがないか、事実に間違いがないか、さらに伝わりやすい表現にできるところはないかなど、内容をチェックしていきます。

鈴木さんは、読んで気になるところがあったら、ゲラに書きこみます。「疑問はなるべく短く書くよう心がけています。作者によっては、疑問を出されること自体をいやがる方もいます。失礼にならないように、伝え方には気を使います」

編集者を通して、著者と2~3回ゲラをやりとりしたら、いよいよ印刷です。本が完成すると「うれしい気持ちよりも、ミスはなかったかなという心配な気持ちが大きい」そうです。

「これからも、たくさんの知識やものの見方を教えてくれた本に恩返しをするつもりで仕事をしたいです」

岩波書店の校正者、鈴木忠行さんの仕事

あゆみ

小学5年生の時に、転校生から借りた江戸川乱歩の少年探偵小説を読んで以来、本が大好きになりました。中学校では本の影響で物理に興味を持ち、高校は理系科目でいい成績をおさめました。大学は文系へ。大学院修了後は教員になる道も考えましたが、本にかかわる仕事を選びました。

岩波書店に入社後は、辞典や雑誌の編集を担当。企画を考えるよりも本をつくることにかかわりたいと、編集部から校正部への異動を希望して、校正の仕事につきました。

1964年
宮崎県生まれ
1980年
宮崎県立日南高校に進学
1983年
東京都立大学人文学部に進学
1988年
東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程に進学
1990年
岩波書店に入社。編集者として働く
1997年
会社を休職し、フランスに語学留学
1999年
岩波書店に復職
2009年
校正部に異動
やりがいや苦労

名作の新訳に10年かけ取り組む

フランスの作家マルセル・プルーストが書いた『失われた時を求めて』という小説があります。校正部に入ったころ、岩波文庫から新しい日本語訳の本を出版することになり、校正を担当しました。

とても長い小説で、出版まで約10年かかりました。自分の力不足を痛感する大変な仕事でしたが、ゲラで読む翻訳は、学生時代に読んだ以前の訳よりもずっとわかりやすく感じられました。

「名作の新訳にかかわることができて、この仕事をしていてよかったと思いました」。鈴木さんの思い出の作品です。

クローズアップ
岩波書店の校正者、鈴木忠行さんの使い慣れた筆記用具。右から、青えんぴつ、赤ペン、シャープペンシル、ゲラの文字の大きさを確認するシート
使い慣れた筆記用具。右から、青えんぴつ、赤ペン、シャープペンシル、ゲラの文字の大きさを確認するシート

2021.12.6付 朝日小学生新聞
構成:戸井田紗耶香
撮影:近藤理恵
イラスト:たなかさゆり

毎週月曜連載中の「紹介します 〇〇のしごと」から記事を転載しています。
朝日小学生新聞のホームページはこちら