白い皮で何かを包んでいるあのひと、何してる?

2025.02.26 あのひと何してる?

点心師が餃子を包んでいるところ

点心師(てんしんし)

点心とは、中華料理の軽食のこと。水や小麦粉などをこねた皮で具材を包んだ餃子(ぎょうざ)やシューマイ、小籠包(しょうろんぽう)などはイメージしやすいかもしれないね。ごまだんごや杏仁豆腐(あんにんどうふ)などのデザートも点心に含まれるよ。この点心を専門的に作るのが点心師だ。写真は、点心師が餃子の具材を包んでいるところだよ。(写真提供/ホテル日航福岡 撮影地はいずれも福岡市博多区)

包み方ひとつで見栄えがまったく変わる。味はもちろん目でも楽しむ料理


中華料理の料理人といえば、レストランの厨房(ちゅうぼう=調理室)で大きな中華鍋やフライパンを使って調理する姿を想像する人もいるでしょう。しかし、点心師の仕事では、「あん(中につめる具材のこと)」を皮で包む作業が大きな割合を占(し)めます。多いときは、1日に130個の点心を作ることも。あんを皮で包み、同じ形に整えるには、高い技術と集中力が求められます。


あんの包み方は、小籠包や肉まんのベーシックな包み方である「鳥かご形」や、蒸(む)しエビ餃子などに用いる「くし形」、葉っぱのような見た目の「木の葉形」、しっかりしたあんを包むのに適した「丸形」などさまざまです。具材や皮にどの材料を選び、どう包むかで味や食感、さらには見栄えも大きく変わります。

点心師が作った点心の画像

左上から時計回りに、スープをたっぷりと閉じ込めた熱々の「小籠包」、パクチーと釜焼きチャーシューの入った「パクチー入り蒸し餃子」、ぷりぷり海老が特徴のベーシックな「広東風焼売」、浮き粉でつくった「蒸しエビ餃子」。皮を着色してバリエーションをつけることもある

例えば、「蒸しエビ餃子」の場合、皮には小麦粉のデンプンを精製(せいせい)した「浮き粉(うきこ)」を使います。浮き粉で作った皮は薄くて破れやすく、包むのに技術が必要ですが、蒸すと皮に透明感が生まれ、エビの赤い身が透(す)けて見えます。見た目の美しさとモチモチした食感が特徴で、お客さんの反応も上々だといいます。


生地のかたさや質感は、温度や気候の変化に左右されるため、同じ点心を作るにしても夏と冬で時間配分を変えなくてはなりません。寒い冬は時間をおくと生地が固くなりすぎるので、ほかの季節よりも急いであんを包みます。さらに、生地に直接触れる点心師の体温も影響するため、1人ひとりが経験を重ねて「その日の生地の状態にふさわしいやりかた」を見つける必要があります。その工程は難しくもあり、楽しくもあるといいます。

点心師が使う道具の画像

写真手前は、あんをすくって皮に乗せる「竹べら」。「切れない包丁」として知られる「点心包丁」は、浮き粉で作った生地を面で押さえつけて薄くのばすために使う。右奥は「せいろ」と呼ばれる蒸し器。左奥は、具材を入れる「点心用餡皿(てんしんようあんざら)」

点心はコース料理のメニューのひとつとして出されるほか、点心をメインにしたコース料理もあります。点心師は、ほかの料理とのバランスを考えながら、どんな点心を作るか検討します。例えば、冬が旬のカブをあんの材料に、形もカブの形を模(も)した点心を出すなど、材料や見た目に季節を反映させることもあります。見た目にも華やかな点心をコース料理の途中で出すことで、お客さんは最後まであきることなく料理を楽しめるのです。


また、お客さんにコース料理のすべてのメニューを熱々の状態で食べてもらうために、厨房ではほかの料理人と声をかけ合い、進行を管理します。

点心師が皮を伸ばしている画像

点心包丁で生地を薄くのばしているところ。薄く均一にのばせるかどうかが、完成した点心の見た目や味を左右する

新しい点心のアイデアを得るために、ほかのお店に点心を食べに行く、インターネットで情報収集するなど、日頃から研究は欠かせません。試作しても思うような味にならなかったり、作るのに時間がかかり過ぎたりなどの失敗もあります。味や香りはもちろん、美しさも求められるので、お客さんから「きれい! 見ていてワクワクする」との声をもらえたときは、努力が報われたと感じます。

どうしたら点心師になれるの?


点心の本場中国では、点心師は複数のレベルに分かれた国家資格です。日本では調理師免許以外に必要な資格は特にありませんが、細かい作業が好きな人が向いています。同じ作業を長時間行うので、手先の器用さ以上に、集中力や根気が求められます。また、食べることに関心が強く、研究熱心な人が向いているといえるでしょう。自分の料理で身近な人が喜んでくれた経験がある人は、調理への熱意が続くようです。

協力/ホテル日航福岡  中国料理「鴻臚(こうろ)」古賀千晶さん

取材・文/伊藤恵子