殺陣師(たてし)
テレビや映画などで、刀を持った武士が敵を次々と切り倒すシーンを見たことがあるかな。そんな格闘シーンや演技を「殺陣(たて)」というよ。刀や槍(やり)などを武器に、本当に戦っているみたいで迫力満点だ。 写真は、東京都世田谷区のスタジオで、刀を持った役者に殺陣師が指導している様子だよ。殺陣は日本の伝統的な技術で、世界でもまれな表現方法。殺陣師は、重要な伝統文化を受け継いでいるんだ。(写真提供/株式会社TATE)
面白さと安全性を両立した格闘シーンで、視聴者に非日常を体感してもらう
殺陣は、単にリアルな戦いを再現するのではなく、美しい動きとカッコ良さが融合したエンターテインメントです。最近では、2024年に米国のエミー賞を受賞した戦国ドラマ『SHOGUN将軍』(ディズニープラス)や、忍者家族の活躍を描いた『忍びの家 House of Ninjas』(ネットフリックス)などインターネット配信での製作が盛んで、海外でも評判となっています。
また、アニメやゲームの原作を俳優が演じる「2.5次元舞台」や、アニメや漫画を原作とした実写映画の流行で、エンターテインメント性を重視した派手で見栄えがする殺陣が好まれています。
バラエティー番組で放送されたコントの格闘シーンの振り付けや演出、CMの制作現場での武士の座り方や礼の仕方の指導に加え、一般の人が参加できる「侍忍者体験」の指導や統括も担当。欧米圏、アジア圏など海外からのオファーも多い(撮影地=東京都港区)
視聴者にアクションや殺陣などの格闘シーンを楽しんでもらうために、ドラマ、映画、舞台、CMなどで、役者に振り付け・指導・演出をするのが殺陣師の仕事です。殺陣師は台本を読み込み、ストーリーに合った殺陣の振り付けやシーンの構成を考えます。ときには脚本づくりの段階から参加し、修正作業をサポートすることも。台本が完成したら、役者に殺陣を指導し本番に向けてシーン全体を仕上げます。
映画やドラマでは、視聴者にわかりやすく映るように撮影シーンを「一枚の絵」として考える工夫も重要。主役の武士が多くの敵に囲まれる格闘シーンを例に挙げると、まず主役が多数の敵を切っていく手順を決め、スムーズな動線(どうせん=役者たちが移動する道筋)を考えます。さらに、すべての演技がカメラに収まるように、主役や敵の立ち位置および、「切られ役をどう動かすと視聴者に瞬間の映像が分かりやすいのか」なども緻密(ちみつ)に計算。流れるような動きとキレのある技で、視聴者に迫力と臨場感を与えます。
殺陣の武器は日本刀が半数だが、槍(やり)、薙刀(なぎなた)、小刀(こがたな)などのほか、箒(ほうき)を登場させることも。戦隊ヒーローものや刑事ドラマのように、武器を使わず素手で立ち回りを構成することもある。海外作品では、サーベル(軍人や警官が腰に下げている刀剣)や棍棒(こんぼう)が主流(撮影地=東京都新宿区)
刀や槍などの武器を振り回す格闘シーンで、殺陣師が最も配慮するのは役者の安全。ケガや事故が起こりやすいのは、役者が殺陣の動作の手順を忘れたときや、決められた手順と違う動きをしたときです。そのため事前の打ち合わせなしで行う「アドリブ」は少なく、役者には振り付けと手順を確実に覚えてもらい、練習を何度も重ねて体に染みこませます。
作品ごとに求められる殺陣が違うので、殺陣師は日頃から、時代劇や演劇のほかにもダンスの公演やバラエティー番組などさまざまな作品を見て、知識やイメージの引き出しを増やす努力を怠りません。非日常の世界観を創造して、役者に体現してもらうことが仕事の醍醐味(だいごみ)。面白さや独創性を追求する一方で安全性も両立させながら作品を作り、視聴者に感動を届けています。
どうしたら殺陣師になれるの?
殺陣師が所属する事務所に入る、または殺陣を学べる稽古場(けいこば)に通うのが一般的です。殺陣の勉強から始め、経験と知識を積みます。日本の伝統的な文化に興味があり、ものづくりが好きな人に向いています。