ノリ漁師
海でノリを養殖(ようしょく)して収穫する仕事だよ。ノリは色・ツヤ・うまみ・香り・歯切れの良さなど様々な基準で評価され、漁師さんの所属する漁業協同組合の支所ごとに品質を示す「等級(とうきゅう)」がつけられるんだ。「初摘み(一番摘み)」はノリが若い時に収穫されたもので、柔らかくおいしいのでおすすめ。品質の良いノリを育てるためにどのような仕事をするのかな。(写真提供/佐賀県有明海漁業協同組合 撮影はすべて有明海(佐賀県沖合))
ノリのタネを網に植え付けて、おいしく丈夫なノリを育てる
ノリは海藻の一種で、タネとなる胞子(ほうし)を出して仲間を増やします。春先になると、胞子はノリの成体から水中に放出され、カキなどの貝殻(かいがら)の白い石灰質(せっかいしつ)の部分にもぐり込み、糸のような形状となって水温の高い夏を過ごします。佐賀県有明海漁業協同組合では、ノリのタネを管理するカキ殻糸状体(しじょうたい)培養所を持っており、この性質を利用してカキ殻の中でノリを育てます。そしてこのカキ殻の中で育ったノリ胞子がノリ漁師に配布されます。
胞子の付いたノリ網を少しずつ広げていくと、海が一面のノリ畑のようになる
夏の終わり頃になると、漁師は海にノリを育てる養殖施設の準備を始めます。まず、9~12mほどの支柱を1本ずつ、船の上から遠浅の湾の海底に建てていきます。漁師1人あたり3000本ほど海中に建てる肉体的にハードな作業です。
秋には、30~35枚重ねたノリ網を海に張り、その下にノリの種が入ったカキ殻を網に吊るします。水温が24度を下回るとカキ殻の中の胞子が朝日を浴びて海中に飛び出し、ノリ網に付着しやがてノリとなります。ノリ芽が小さい間、漁師はほぼ毎日網を洗って海中の藻や汚れを落とします。この作業と並行して、重ねた網を広げていくことで、丈夫なノリが育ちます。毎日海に出て、身体的な負担の大きい仕事をしますが、ノリの育つ様子を見守る喜びがあります。
干潮(かんちょう)時に網が海水面から上がるように高さを調整し、干すようにしてノリを日光浴させることで、有明海産独特のおいしいノリが育つ
ノリが15センチ程度に育つ11月下旬、収穫スタートです。この期間のノリを「秋芽(あきめ)」と呼び、12月頃まで3~4度摘み採ります。1枚の網から一度に採れるノリは、縦21センチ、横19センチの板ノリ400~600枚ほど。ノリが光合成を行う昼間は避け、細胞の動きが落ち着く夜に収穫するのが一般的です。寒い冬の海で、網の巻き上げとノリの刈り取りを船に積んだ機械を使って2人がかりで行います。
陸揚げしたノリに異物が紛れていないかを繰り返し確認し、取りのぞきます。機械でノリの水を絞った後、速(すみ)やかに乾燥・成形させます。
佐賀有明のノリ作りは2期作(10月〜12月頃と1月頃〜3月末)です。1期作の途中で、ノリの芽の大きさが3~5センチ程度まで成長しているのが確認できたら、種付けした網の半分の枚数を、陸上で半乾燥させた後、芽を傷めないマイナス25度くらいの温度で冷凍保存します。秋芽の摘み採りが終わる12月下旬に網を一斉に撤去(てっきょ)し、冷凍保存していた網を張り込み、2期作目のノリが成長するのを待ちます。ノリ漁は3月末まで続きます。
乾燥させる前に板ノリの形に整えて水気を落とす。ノリの乾燥・成形には大型で高額な機械を使うので、漁業協同組合に作業を頼んだり、複数の漁家(ぎょか=漁をする人たちの経営単位)で機械を共同で購入したりする漁業者が約6割を占める
海や山、川などの自然環境を守ることも、おいしいノリ作りに深く関わっています。山に降った雨が地中に染み込んで栄養豊富な水となり、川から海に流れているからです。佐賀県有明海漁業協同組合では、栄養の元となる落ち葉を増やすために、山で植樹するなど自然保護に積極的に取り組んでいます。甘みがあり、パリパリとした歯切れの良い一番摘みのノリは、おにぎりや巻き寿司に使うのはもちろん、そのまま食べてもおいしいです。ノリ漁師は、一番摘みを食べたときに、これまでの努力が報われたことを実感します。
どうしたらノリ漁師になれるの?
ノリ漁師のもとで働きながら技術を身に付けることが一番の近道です。海での作業は常に危険と隣り合わせであり、収穫期間中はまとまった睡眠時間がとれないくらいに忙しくなることも。体力や判断力が求められる仕事です。「おいしいノリを作りたい」と情熱を持って取り組める人は、やりがいを感じられるでしょう。