色のついた液体を注いでいるあのひと、何してる?

2024.07.12 あのひと何してる?

職人が水彩絵の具を作っている画像

水彩絵の具職人

学校の図工の時間などで、水で溶いて絵を描くのに使う水彩絵の具。赤、青、黄色、緑、黒、白など、たくさんの色の絵の具を作り出しているのが、水彩絵の具職人のお仕事だよ。(画像提供/月光荘画材店 撮影地はいずれも長野県千曲市の長野工場)

色の粉と糊(のり)を混ぜて練る


チューブからパレットに出し、水で溶いて使う水彩絵の具。主に「顔料(がんりょう)」と呼ばれる色の粉と「展色剤(てんしょくざい)」という糊のようなものでできています。


展色剤には顔料を紙に定着させる役割があります。主成分はアフリカ原産のアカシアの木から採れる樹脂=アラビアゴムで、粉末状のものを水に溶かして作ります。また、絵の具が固まらないようにする保湿剤のグリセリンも入っています。

職人が水彩絵の具を作っている画像

攪拌機の羽根車(はねぐるま)が回って、顔料と展色剤が混ざり合う

水彩絵の具作りは、顔料と展色剤を混ぜあわせる「攪拌(かくはん)」から始めます。攪拌機のタンクに材料を入れて混ぜ、顔料を全体に分散させます。


次は、「練り」の工程に進みます。混ぜ合わせた液体を「3本ロールミル」と呼ばれる回転するロールの機械に投入します。狭い間隔で並んだ3本のロールはそれぞれ回転速度が異なり、ロールの間を液体が移動することで、顔料がすりつぶされ、練られていきます。この工程を複数回行うことで、発色が良く、ほどよい粘土の絵の具を作ることができるのです。


ちなみにこの「練り」の工程は、社会科見学で訪れる小学生たちが一番盛り上がるところ。ロールですりつぶされ、なめらかになった絵の具が出てくると、歓声が上がるそうです。

職人が水彩絵の具を作っている画像

充填機のノズルから絵の具をチューブに詰める

いよいよ最終工程へ。できあがった絵の具をチューブに詰める「充填(じゅうてん)」と呼ばれる作業に入ります。充填機のタンクに絵の具を入れ、足元のペダルを踏んでノズル(先が細くなった筒のような管)から絵の具をチューブに詰めていきます。1本ずつ行う地道な作業です。


そしてキャップをはめ、色の名前が書かれたラベルをチューブに巻きつけたら完成。箱に詰めて出荷します。


一度に作る絵の具の量は15kgほど。チューブに換算(かんさん)すると約900本です。ほかの色が混ざらないよう機械や道具をしっかり洗い、細心の注意を払いながら作業をします。


絵の具の色は、メーカーやブランドごとに微妙な違いがあります。その理由は、顔料や展色剤の配合が異なるから。絵の具の色を正しく出すために、職人は丁寧に工程を重ねているのです。


職人にとって、絵の具で描かれたさまざまな作品を見るのは大切な機会だといいます。絵の具の使い方や色の出方を見て、絵の具作りのモチベーション(やる気)にしているそうです。

どうしたら水彩絵の具職人になれるの?


絵の具メーカーに就職して現場で経験を積みます。特別な資格は要りませんが、色や材料に関する知識は必要です。絵画への興味や好奇心も大切です。

協力/月光荘画材店

取材・文/鈴木ゆう子