ネオン職人
職人さんが、ガラス管を炎であぶっているね。口にくわえているのは、ガラス管に空気を送り込むためのチューブだ。ネオン管は、かつては街中の看板や広告に使われていた電飾(電気の発光による装飾)で、今はアートとしても注目されているんだ。ネオンの多くがLEDに代わった今も日本各地にネオン管が残っているので、いつもより少し目線を上げて、よく観察すると見つかるかもしれないよ。(写真提供/アオイネオン 撮影/中村治)
ガラスの特性を把握(はあく)し、手作業で作る「ネオン管」
形が完成したガラス管(右)に、電極(左)を取り付けている。バーナーで熱してガラス管を溶かしながら接合する(撮影/中村治)
ネオン管は、真空状態にしたガラス管にガスを入れて、電流を流すと発光する電飾です。ガラス管の両端につけた陰と陽の電極に電圧をかけると放電という現象がおこり、電子が飛び出します。飛び出した電子と、ガスの原子がぶつかったエネルギーによって、ネオンの光は生まれます。
ネオン職人の仕事は、図面に描かれた2次元のデザインから、3次元のネオン管を形作ることです。
まず、約800度の炎でガラス管を熱し、柔らかくなったら原寸大の図面に合わせて、あぶりながら曲げていきます。空気を吹き込むのは、厚さ1mmほどしかないガラス管が、熱して曲げたときにつぶれないようにするため。空気を吹き込むスピードが遅いときれいな形にならず、また、空気を入れすぎると割れてしまうため、熟練した技術が必要です。ガラス管が冷めたら再び熱して、次の曲げ作業をします。この作業を繰り返しながら、一筆書きのようなイメージで図面のデザインを再現するのです。形ができたら、バーナーで熱しながらガラス管の両端に電極を取りつけます。
ガラス管にガスを封入しているところ。赤みを帯びた「ネオンガス」と青みを帯びた「アルゴンガス」のどちらかを使う。ガスの色とガラス管の塗装を組み合わせることで、さまざまな色をつくることができる(撮影/中村治)
東京・大田区の「穴守稲荷(あなもりいなり)神社」公認のお稲荷さまのネオンアート。ネオンを展示するイベントを開催するなど、多くの人にネオン管に親しみを持ってもらえるよう活動の場を広げている(撮影/木下令)
最終工程となるガスの封入作業は、もっとも注意が必要です。まず、真空・充填(じゅうてん)装置にネオン管を接合し、内部の空気を抜いて真空状態にします。ここでしっかりガラス管内の不純物や空気を抜くことが、ネオン管の発色の良さにつながります。そして、ガスの封入作業では、気体の圧力を測る機械「マノメーター」を確認しながらガスを入れていきます。ガスの圧力が高すぎても低すぎてもネオン管の不点灯や破損など品質に影響があるため、繊細さと経験が問われる作業です。最後に、ネオン管を点灯して光ることを確認したら、完成です。
図面通りの仕上がりにするためには、頭の中で平面を立体に変換しながら、ガラス管を曲げる必要があります。ガラスの特性を理解し、電極の取り付けや原寸図に基づく曲げ方の手順を学ぶなど、経験を積み重ねて、ようやく職人として認められます。ガラス工芸のような繊細な手作業には経験と感覚が必要で、職人の個性や技能が表れます。
現在、日本でネオン管を作る職人の数は50人ほど。ネオンのLED化が進む中、その数は減っていますが、アートとしてのネオン作品に目を向けた新たなチャレンジを続けています。LEDの光は直進し広がりにくいのですが、ガラス管ネオンは360度光るのが特徴です。ネオン管ならではのやわらかく温かみのある光を生かし、多様なアーティストや企業、ブランドとのコラボレーションで作品をつくり出しています。おでんの形をした回転するネオンタワーなど、思いもよらないデザインを形にする機会があるのも、この仕事の魅力でしょう。
どうしたらネオン職人になれるの?
学歴や年齢は問いません。情熱と根気、手先の器用さが必要です。ネオン管を製作する企業に就職し、5年から10年の経験を積むのが一般的です。