舞台の上で手を動かしているあのひと、何してる?

2024.03.27 あのひと何してる?

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舞台手話通訳(ぶたいしゅわつうやく)

身の回りの音や話し声が聞こえない、あるいは聞こえにくい状態を「聴覚障害」というよ。聴覚障害者の人たちの中には、手や指の動き、表情なども使った「手話」を言葉にしている人もいるんだ。手話通訳士は、聴覚障害者と聴者(聞こえる人)の間に入り、手話という言葉を使ってコミュニケーションを助ける専門家のこと。例えば演劇などの舞台に立つのが舞台手話通訳だ。写真は、東京・下北沢の駅前劇場で通訳をしている様子だよ。(写真撮影/塚田史香)

役者のセリフや感情、風雨、電話の音まで表現し、手話で作品を届ける


舞台手話通訳は、声によるセリフだけでなく、風や雨、電話の音などの効果音、BGMを含めた音楽などを聴覚障害のある観客へ手話で伝えるのが仕事です。演劇やミュージカル、人形劇、音楽ライブやコンサートでの出番も増えつつあります。


会議や講演などで音声の情報をリアルタイムで伝える、一般的な手話通訳とは、表現方法が異なります。例えば演劇の舞台では、作品の世界を適切に観客に伝えることが大切です。


そのため事前に台本を読み込み、セリフの背景などをきちんと理解した上で稽古にも参加。手話での表現に迷ったり、作品の意図がつかめているか不安になったりしたときは、手話監修者や演出家、脚本家、役者に相談したり質問をします。


本番の舞台では、観客がストーリーに入り込めるように、通訳はさまざまな工夫をしています。その一つが、俳優の演技や気持ちとリンクさせながら手話通訳を行うということ。稽古で役者がセリフを話すときの演技や表情、どんな気持ちでその演技をしているかといった心情を何度も確認し、通訳も合わせられるように練習します。

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舞台の横などに立ったまま通訳する場合と、舞台上を移動し、役者と同じように演技しながら通訳する場合がある(写真提供/東松山市民文化センター=埼玉 撮影/佐藤智)

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舞台手話通訳は、演劇に対する知識はもちろん、台本を読み込み、適切な手話表現に翻訳する力や、舞台上でのさまざまな動きに対応する力が求められる

BGMや効果音がセリフと重なるときは、表現するタイミングをずらしたり、もっとも重要と思われる音情報だけを厳選して伝えたりします。


また、役者が台本に書かれていない演技をする「アドリブ」が入ることも珍しくありません。そのとき焦らないように、稽古ではアドリブが入りそうな箇所をチェックし、対応できるよう準備をします。役者がセリフを忘れてしまうハプニングが起きたときは、通訳も役者の演技に合わせますが、そのセリフがストーリーに大きく関わる場合、通訳の判断で補足することもあります。


日本には、障害を理由にした差別を解消するための法律「障害者差別解消法」があります。この法律が2021年に改正され、2024年4月から義務化されます。視覚や聴覚に障害のある人も演劇芸術を楽しめるように、バリアフリー鑑賞への対応が強化されることになりました。舞台手話通訳の活躍の場は、広がるに違いありません。

どうしたら舞台手話通訳になれるの?


特に資格は必要ありませんが、舞台手話通訳に特化した養成講座を受講するとよいでしょう。また、「演劇」「手話」のどちらも勉強することが、舞台手話通訳に必要な知識と技術力のアップにつながります。手話を使って生きている人たちの「ことば」を尊重し、観客に作品を楽しんでもらうために、技術を磨き続けることが大切です。

協力/特定非営利活動法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク

取材・文/内藤綾子