細長い木材を削っているあのひと、何してる?

2024.01.15 あのひと何してる?

バット職人(ばっとしょくにん)

野球の公式戦では、高校野球までは金属バット、大学生からは木製バットが使用されるのが主流なんだって。大学野球、社会人野球、プロ野球などの試合で使用される木製バットを製作するのがバット職人だ。依頼人の中でもこだわりが強いのは、プロ野球選手。バットは選手の成績を左右し、試合展開にも影響するから責任重大な仕事だね。(写真提供/ミズノ株式会社)

0.1ミリの削りにこだわり、選手の希望通りのバットを作る


バット職人は、選手の「こういうバットを作ってほしい」という要求を形にするのが仕事です。最初のステップとして重要なのは、材料を見極めること。一般的に、材料となる原木は北米から輸入したメイプルやホワイトアッシュなどで、長さ1mほどの角材の状態で製材所から届きます。


まずは、節の位置や木目の切れ目などを確認。節の部分は硬いのでしなりがなく、節を起点にして折れやすいため、手で握るグリップ側は避けて先端側にするといった判断をします。次に「最速150㎞の球を打ち返す強度があるか」と考えながら、軽く地面をたたいて音も聞きます。甲高い木製音が響くと、球の反発力に優れていると分かるのです。


材料が決まると角材をろくろで粗削りしたあとに、グリップから先端まで、ミリ単位、グラム単位の精度にこだわり抜いてバランスの良い1本に削り上げます。特に注意するのはグリップ。選手は、0.1ミリ厚みが違うだけで違和感を持つほど繊細です。「小指の部分がちょっと太い」といったニュアンスを伝えてくるので、数値に現れない“感覚”を頼りに、ノミやカンナで削る角度や厚みを微調整しています。「もう少し軽く」と言われたら、バットの先端をくり抜くこともあります。

選手との過去のやり取りを記憶し、選手ごとのバットの好みをすべて頭に入れている

0.1ミリ単位でグリップや重量の微調整を行うのは、熟練の技術が必要

バット職人は、コミュニケーション力も必要です。選手の性格や技術を一人ひとり把握しながら対応を変え、細かい注文を言い出せない選手には、「満足のいくバットを作りたいので、遠慮しないでください。さらに調整しますか?」と優しく促す配慮をしています。


テレビ中継でバッターボックスに立つ選手を見ると、プレイよりも、「どのようにバットを握っている?」ということが気になります。その観察力が、感性や技術を磨くことにつながっているのです。

どうしたらバット職人になれるの?


スポーツ用品の製造・販売を手がける会社などに就職し、技術を一から学びます。野球の経験は必須ではありませんが、知識は頭に入れておきましょう。

協力/ミズノ株式会社

取材・文/内藤綾子