未来はAIが仕事をしてくれるらしい。じゃあ私たちは何をすればいいの?

2023.12.12 おしごと映画

しごとについての質問

「未来はAIが仕事をしてくれるらしい。じゃあ私たちは何をすればいいの?」(13歳・女子)

中山治美(なかやま はるみ)さん 

スポーツ新聞記者を経て、フリーの映画ジャーナリストに。映画サイト「シネマトゥデイ」ほか、多数の雑誌で連載。世界の撮影スタジオ、映画祭を取材中。

AIの管理・活用は、そう簡単ではないかもしれません


『老人Z』原作・脚本・メカニックデザイン:大友克洋

キャラクター原案:江口寿史

監督:北久保弘之

声:松村彦次郎、横山智佐、小川真司

販売元:アニプレックス

価格:DVD 5134円(税込)

©1991 TOKYO THEATERS CO.,INC/KADOKAWA SHOTEN PUBLISHING CO.,LTD/MOVIC CO.,LTD/tv asahi/Aniplex Inc.

『アフター・ヤン』

監督:コゴナダ

出演:コリン・ファレル

オリジナルテーマ:坂本龍一

配給:キノフィルムズ

主要配信プラットフォームにて現在配信中

ⓒ2021 Future Autumn LLC. All rights reserved.

質問者はAI(人工知能)社会の到来に、明るい未来を感じているのですね。でも一方で、考えなければいけない側面もあるようです。


2023年の米国ハリウッドは、大きくゆれました。全米脚本家組合や俳優組合が、制作会社側に労働条件の改善や要望を訴えるストライキを起こし、制作や宣伝活動が一時ストップしたのです。


ストライキには、生成AIに既存のデータを学習させるにあたり、脚本家たちは脚本を、俳優たちは容姿や声を“勝手に使うな!”といった異議も含まれていました。


そこには「いずれ人間の仕事が奪われる」という懸念もあり、人間がAIを乱用する前に「ちゃんとルールを決めましょう」という要求をしたのです。
 

さらに映画や小説などが繰り返し警鐘を鳴らしているのが、AIの暴走です。アニメ映画『老人Z』(1991)を見てみましょう。


本作は厚生省(現在の厚生労働省)が高齢化社会を見すえて、介護型ロボットを開発し、寝たきり老人で実証実験を行うところから始まります。ベッド型で、おじいさんは寝たまま入浴も排泄(はいせつ)も食事もできれば、健康管理もOK。人手不足問題をも解消する画期的な開発のように思えました。


ところがおじいさんの自我と意思を読み取ったロボットは、自ら動きだし、研究施設から脱走して、上を下への大騒動となります。


私たちの心の中には「AIが我々の想像をはるかに超える知能を持つのではないか?」「自我を持ったAIが人間に反撃を仕掛けてくるのではないか?」という恐怖心があります。また科学技術を使って世界をコントロールしようとする人間の驕(おご)りに対する疑問が、こうした作品を生むのでしょう。


一歩進んで、AIと共存した社会ではどんな事態が起こるのかを、先読みした作品もあります。米国映画『アフター・ヤン』(2021)です。


時は近未来。自動運転の車があたりまえに走り、人間と全く見分けのつかないクローンや人型ロボットが社会に溶け込んでいる世界です。ジェイク&キラ夫妻の家も、中国の会社で製造された人型ロボットのヤンを購入しています。夫妻は中国系の少女ミカを養女として迎えており、ヤンは彼女に中国の言語や文化を教える教育係でもあります。


ところがある日、ヤンは故障して動かなくなりました。修理をしようと奔走するジェイクですが、ヤンは古い型のロボットで修理は不可。しかしデータの中にはヤンの記憶が残されていて、ジェイク家族との思い出はもちろん、恋人の存在も明らかになります。


長年「AIは感情を持てるのか?」が議論されてきましたが、明らかにヤンには愛情があったのです。そのヤンの死を、人間はどのように受け止めるべきか? 戸惑うジェイクを通して、我々にはそんな問いが投げかけられます。


いずれにしても生成AI搭載の製品を、管理・活用するのは、今のところ人の手に委(ゆだ)ねられています。人間がラクできるのかというと、どうやらそう簡単にはいかないようです。


「私たちの生活をより良きものにするために、AIをどう活用するのか?」。開発だけではなく、それを考察・研究する学部が大学にも増えています。もしAIに興味があるのなら、進路のひとつに考えてみてはいかがでしょう?