フィルム修復(しゅうふく)技術者
映画が誕生したのは120年以上前。昔はどの映画も「フィルム」に撮影して、映写機という機械にかけて見ていたんだよ。おうちでも、家庭用カメラで撮影して壁や白い布をスクリーン代わりに映して楽しんでいたんだって。貴重な作品や大切な思い出が記録されたフィルムは、時間が経つと破損や劣化によって映像が見られなくなるものもあるのだそう。フィルム映像を再び見られるように、いろいろな方法で修復していくのが、フィルム修復技術者のお仕事だよ。機械や薬剤も使いながら、慎重に根気よく作業しているよ。(写真提供/IMAGICAエンタテインメントメディアサービス)
フィルムの状態を見て、修復方法を検討し慎重に作業をする
フィルムの修復や復元を行うラボ(現像所)には、毎日たくさんのフィルムが持ち込まれます。フィルムの状態はさまざまで、破れていたり、フィルム同士が固くくっついて変形していたり、カビが生えていたりすることもあります。
フィルムにどんな映像が映されているかを調べる機械=大阪市北区
フィルムの厚みをチェックする機械=大阪市北区
フイルム修復技術者は、まず状態を確かめることから始めます。専用のマシンにフィルムを通し、目で見て手で触りながら、チェックしていきます。さらに厚さや伸縮度合いを測り、フィルムがどれくらい劣化しているかを調べます。簡単な修繕で済むものから、薬剤や機械を使って時間をかけて修復するものまで、復元に向けての計画を考えます。
フィルムの傷やつなぎ目の修繕には、専用の機械のほかに、かみそりや和バサミ(糸切りばさみ)、テープなどの身近な道具も使います。フィルムを傷つけないよう、手袋をして慎重に取り組みます。
縮んだり溶けたり固まったり、フィルムは環境の影響を受けて劣化します。その症状によって、機材や薬剤を使い分けて作業をします。フィルムが変形している場合は、熱で平らにする機械を使います。
長年たまった汚れには、フィルムに影響を与えない薬剤できれいに洗い流します。テレビで見たり、パソコンで加工したりするために、デジタル映像に変換する「スキャニング」という工程もあります。
依頼のなかには、フィルムに撮影された当時の映像に、できるだけ近づけてほしいというものもあります。そのフィルムを確認し当時の映像文化や映像技術を調べながら、映像は復元されます。白黒フィルムの時代には、染料を使用して直接フィルムを染める「染色」という技法や、薬剤による化学変化の効果を利用した「調色」という技法もあり、いろいろなアプローチで当時の映像を再現できるよう修復するのです。
地道に慎重に、細かい作業を続けるフィルム修復技術者。劣化したフィルムを修復し、映像が再び見られるようになったとき、とてもやりがいを感じるそう。種類も年代もさまざまなフィルムの修復技術を高めながら取り組んでいます。
どうしたらフィルム修復技術者になれるの?
フィルム映像をデジタル映像に変換するスキャニング。機械を使うときも慎重に=大阪市北区
技術や知識は仕事を通して学ぶことが大半なため、必須とされる学問や資格はありません。しかし、大学や専門学校で映画史や撮影の学科へ進むと、映画の歴史やフィルムについて学んだり映像作品に広く触れたりできる良さがあります。また、海外にはフィルムの修復技術を学べる学校や研究施設もあります。日本ももちろんですが、海外にもアンテナを張り、情報収集をすることも大切です。
フィルム修復は、細かい作業をコツコツ積み上げる根気のいる仕事です。「映画が好き」という気持ちや作品への好奇心がモチベーションにつながります。映像や音響など、実際の映像体験から学べることはたくさんあります。いろいろな映像を見たりフィルム上映の作品を見に行ったり、映像に楽しく触れる機会を作ることも大切です。