熊野筆の伝統工芸士(くまのふでのでんとうこうげいし)
広島県熊野町で作られる筆は「熊野筆」という名前がついて、国から「伝統的工芸品」にも認定されているブランド品なんだ。江戸時代の末期に始まった熊野町の筆作りは、今や日本一の生産量を誇る。だから熊野町は、「筆の都」と言われているんだって。そんな熊野町で筆を作る職人が伝統工芸士で、現在14人も活躍しているよ。(写真提供/熊野筆事業協同組合)
筆の命である「穂首」を担当する職人。使う人のことを思いながら
筆は、主に墨や顔料をつける毛の部分の「穂首」と、手で持つ部分の「軸」からできています。熊野町では、筆産業に携わる人たちが、書道筆、洋画や水墨画などを描く画筆、化粧筆を作っていて、なかでも伝統工芸士は、書道筆の命である「穂首」づくりの仕上げまでの全工程を一人で完結できるトップクラスの職人です。
筆は、文化を創造してきた影の主役であり、道具。さまざまな国や地域で独自の文化を生み出し、暮らしに豊かさと潤いをもたらす
「選毛・毛組み」の作業中。筆の出来具合を左右するといっても過言ではない、重要な工程
穂首の材料は主に動物の毛で、馬、鹿、ヤギ、イタチなどを使うのが一般的です。動物の毛に含まれる脂肪分や汚れを取り除く、毛先を切りそろえるなど、12もの工程を重ねます。一般的な筆の場合、1本1本作るのではなく、工程ごとに100~200本をまとめて効率的に製作しています。
筆作りの工程で苦労するのは、最初の「選毛・毛組み」です。同じ動物の毛でも部位によって太さや硬さが違うので、毛を一房ずつ手に取って、毛の強弱、状態の良し悪し、色などを確認し、使う毛を丁寧に選びます(選毛)。次に、筆の種類に合わせて毛の組み合わせを決めます(毛組み)。これは数種類の異なる毛を混ぜ合わせ、毛の配合割合を考え長さを整える、大変緻密(ちみつ)な作業です。
また、形の良い筆にすることも重要です。特に穂首の部分はゆがみがなく、スッと整った円錐形(えんすいけい)になるよう心がけています。形の悪い筆では、使ったとき思い描くような仕上がりにはなりません。
伝統工芸士が丹精込めて作り上げた1本は、穂首を触るとサラサラして使い心地もなめらかです。子ども用の大量生産品でも書家の特注品でも、使う人にとっては大切な1本の筆。そのことを意識して、品質がブレないよう見本をそばに置いて、芯の強さや書き味を何度も確認しながら作っています。
どうしたら熊野筆の伝統工芸士になれるの?
筆作りの経験年数が、12年以上必要。そのうえで、筆記試験・実技試験(実際に筆を作る試験)・1カ月以内に製作した作品の審査などに合格して、「伝統工芸士」の国家資格を取得します。