竹を何かに押し当てているあのひと、何してる?

2023.11.07 あのひと何してる?

駿河竹千筋細工職人の画像

駿河竹千筋細工(するがたけせんすじざいく)職人

「駿河竹千筋細工」は、細い竹ひご(竹を細く割った棒)と竹の輪を組み合わせて作る静岡市内の工芸品で、花器や虫かご、風鈴など、さまざまな製品があるよ。何本もの竹ひごが描く曲線が、繊細(せんさい)な美しさを表現しているね。江戸時代中期以降に全国に広まり、細い竹ひごを組み合わせる技法が確立されたといわれているよ。(写真提供/静岡竹工芸協同組合)

「丸ひご」と「輪」、2種類のパーツを組み立てて美しい工芸品に


駿河竹千筋細工職人の仕事は、竹を割って材料を作り、組み立てるという伝統的な技法を使って工芸品を制作することです。材料には、節と節の間が長く、きめの細かい「苦竹(まだけ)」と直径が太く肉厚の「孟宗竹(もうそうちく)」の2種類の竹を使います。

駿河竹千筋細工の工程の一つ、小割の画像

丸ひご作りの工程の一つ、2本の刃に竹を押し当てて割る「小割(こわり)」。器具を使うことで、竹を同じ幅で、かつ楽に割ることができる

駿河竹千筋細工の工程の一つ、ひご作りの画像

丸ひご作りには、金具の部分に大きさの異なる丸い穴の空いた「ひごこき」と呼ばれる器具を使う。最初は大きい穴へ竹ひごを通して角を削ったら、次は少し小さい穴へ通す。これを3〜4回行い、断面を丸くする

駿河竹千筋細工の特徴は、竹串のように断面を丸くした「丸ひご」と、竹に熱を加えて曲げ、両端を接着剤で止めた「輪(わ)」を使うこと。それから、輪に均等に穴を開けて、そこに丸ひごをさして仕上げる「組立(くみたて)」という工程です。薄く削った竹を編む作業も一部ありますが、編む技法がメインとなる他の地域の竹細工とは、使う材料と技法が異なります。


制作時間のほとんどを占めるのが、丸ひごと輪、編みの材料といった、駿河竹千筋細工を構成するパーツ作りです。パーツができるまでは10工程あり、その中に細かい作業がいくつも発生します。かかる工数は多いですが、もの作りに一貫して携われるのは、この仕事の魅力でもあるのです。


丸ひご作りは、竹を割るところから始まります。使いたい丸ひごの細さに合わせて竹の内側を削る「厚み決め」をした竹を刃物に押し当てて細かい切り込みを入れる「小割(こわり)」、「ひごこき」と呼ばれる大きさの異なる丸い穴にひごを通して角を削り、丸い断面にする「ひご引き」など複数の工程を経てできあがります。


竹は自然素材であり、一つとして同じものはありません。思い通りの大きさに加工するにはコツが必要ですが、経験を積むことで、職人のように手際よく進めることができます。


職人は、製品を1個ずつ完成させるのではなく、20個などまとまった数を一度に作ります。丸ひごだけでも1000本単位で使うので、器具を使ったり、材料をすべてそろえてから一気に組み立てたりするなど、進め方にも工夫が見られます。竹をきれいに割るなどの技術はもちろん、効率よく進める方法も代々受け継がれてきた技術なのです。

どうしたら駿河竹千筋細工の職人になれるの?


駿河竹千筋細工の職人、神谷恵美さんが作った花器の画像

職人の神谷恵美さんが作った花器。縦の細いパーツが「丸ひご」で、横のパーツが「輪」にあたる

駿河竹千筋細工職人から、直接技術を教えてもらう方法があります。静岡市には、地域産業界の後継者育成を目的とした「クラフトマンサポート事業」があり、まずはそこに連絡をして静岡竹工芸協同組合へつないでもらうのが一般的です。5〜10年くらい修行をすると、職人としてひとり立ちできます。同じ作業を繰り返し行うため、忍耐力は欠かせません。自分の技術を高めるために学び続ける自己研鑽(じこけんさん)も必要です。

協力/静岡竹工芸協同組合 駿河竹千筋細工職人 神谷恵美さん

取材・文/畑菜穂子