和裁士(わさいし)
和裁とは「和服裁縫」を略した言葉で、和服を縫うこと。和服には、下着にあたる長襦袢(ながじゅばん)、着物、帯、羽織(はおり)、袴(はかま)、浴衣(ゆかた)などいろいろな種類があって、それらを仕立てるのが和裁士だ。写真は、和裁所(和服を専門に仕立てる会社)での作業風景。和服の美しさは和裁士の高い技術によって支えられているよ。(写真提供/辻村和服専門学校)
手縫いによる独特の縫い方や技法を駆使
和裁士は、和服のさまざまな決まり事を熟知し、着る人の身長や体形に合わせて、和服を仕立てるのが仕事です。
着物の生地(反物)は、絹を中心に綿や麻などの種類があり、同じ絹でも正絹と紬(つむぎ)では糸の太さや撚(よ)り(繊維の束をねじること。糸に柔軟性や伸縮性を与える)も違います。まずはその生地を、直線に裁断します。一度ハサミを入れてしまうと元には戻らないため、最も緊張する工程です。およそ13mの反物を8つに裁断したあと、袖(そで)などのパーツごとに縫い上げ、それらを組み合わせて縫い、着物の形に仕上げます。生地の模様は染めのグラデーションがあったり飛び柄があったりするため、着る人の希望に添って最適な配置になるよう工夫しています。
写真は竹尺を使っている様子。反物の横幅が鯨尺(くじらじゃく)という裁縫用の物差しで1尺(約37.8㎝)のため、仕立てに使うことが多い
和裁の特徴は、ミシンを使わず手縫いで行うこと。縫った部分が攣(つ)れないよう(しわにならないよう)、伸縮の具合を確かめながら縫います。指ぬきを使って並縫いをする「運針」や、表にも裏にも糸が見えない「本ぐけ」、縫い目が見えないようコテで布に折り目をつける「キセ」など、手縫い独特の縫い方や技法を駆使しています。
ユニークなのは「寝押し」で、畳んだ着物の上に布団を敷いて、その上でひと晩寝るという工程です。人の体温と湿度により生地の硬さが抜けて着物がなじみ、アイロンをかけたようにキレイになります。
着心地良く、着物の美しさを最大限生かすために、全体のバランスを考えながら糸や縫い方をどう変えるかが難しい部分です。
和裁士は、和服を仕立てるほかに「お直し」をするのも仕事です。ほころび、寸法、たるみ、裏地の交換など、着物には直す部分がたくさんあります。また、母や祖母の着物を、自分の成人式用や子どもの七五三用にリメイクするといった依頼も多くあります。
1枚を仕上げる日数は、着物で2~3日、浴衣は約1日。和服は、世代を超えて長く楽しめ、着ると所作(身のこなし)が美しくなるのも魅力のひとつ
どうしたら和裁士になれるの?
高校卒業後、和裁の専門学校等で学び、呉服店や和裁所(和裁会社)に就職して仕立ての仕事をします。フリーランスで活躍する人もいます。また、和裁所に就職して学びながら仕事をする人もいます。「和裁技能士」という国家資格を取得すれば、就職時やフリーランスで仕事をするときに有利です。